研究課題/領域番号 |
23500381
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 輝幸 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (10246647)
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研究分担者 |
天野 睦紀 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90304170)
水口 雅 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20209753)
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キーワード | てんかん / 発達障害 / レット症候群 / シナプス / プロテオーム / 遺伝子改変マウス / キナーゼ / 海馬 |
研究概要 |
【結果】 本年度は、我々が作製したCyclin-dependent kinase-like 5 (CDKL5)ノックアウト(KO)マウスの、海馬CA1錐体細胞樹状突起と樹状突起スパインの形態・密度解析、海馬スライス電気生理学的解析、行動解析、更に興奮性シナプス蛋白解析などを行った。その結果、海馬錐体細胞樹状突起の長さ・分枝の異常、樹状突起スパインの形態異常、海馬LTP(長期増強現象)におけるNMDA受容体依存性の興奮性の異常、作業記憶と長期記憶の障害、更に興奮性シナプス受容体サブユニット蛋白の異常、等を同定した。 更にCDKL5のリン酸化基質の網羅的同定を目的としたインタラクトーム解析のため、マウスCDKL5のN末端側キナーゼドメイン(野生型、及び活性欠失変異体)のGST標識体をbaculovirus発現システムを用い作製し、名古屋大学大学院医学系研究科・神経情報薬理学講座・天野睦紀先生との共同研究にてプロテオーム解析を用いたリン酸化基質の網羅的スクリーニングを行った。その結果、幾つかの基質候補が得られた。 【意義・重要性】 本年度の研究成果によって、Cdkl5 KOマウスにおける、作業記憶・長期記憶障害と、記憶・学習に極めて重要な役割を果たす海馬における神経細胞樹状突起とスパインの形態異常、更にシナプス受容体サブユニット蛋白の異常が明らかとなった。CDKL5のシナプス機能調節における機能不全が、CDKL5遺伝子変異に伴う神経発達障害の分子基盤であることを強く示唆し、ヒトの病態機序解明のための大きな進歩と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、CDKL5 loss-of-function (LOF) 分子機構の解明という目的に向けて、Cdkl5 KOマウスにおける、海馬の神経細胞樹状突起・樹状突起スパインの形態解析、海馬の電気生理学的解析、行動解析、シナプス蛋白解析等を行い、樹状突起及び樹状突起スパインの形態・密度の異常、海馬LTPにおける興奮性の異常、作業記憶・長期記憶の障害、更に興奮性シナプス受容体サブユニット蛋白の異常、などの重要な神経学的異常を初めて明らかに出来た。これらは新規知見であり、ヒトの病態解明のための重要なデータである。また、「CDKL5作用ネットワークの解明」という目的に向けて、baculovirus発現系を用いた組換えキナーゼ蛋白を作製、初回のCDKL5リン酸化基質プロテオーム解析を行い、幾つかの基質候補蛋白が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で明らかにした、Cdkl5 KOマウスの不安亢進等の情動障害と記憶障害の、基礎メカニズムの探索を進める。具体的には、情動障害が 興奮性シナプス機能異常によるという仮説を立てその検証を、グルタミン酸作動性シナプス阻害剤を用いた行動解析により検証する。更にモノアミン取り込み阻害剤、GABAアゴニストなどの投与に対する反応性の評価を行う。モノアミン系の脳内濃度、レセプター発現、さらにレセプター活性と、上流から下流へ障害部位の探索を進める。海馬スライスを用いて、NMDAおよびAMPA受容体の入出力関係、NMDA-AMPA ratioの検討、excitatory-inhibitory balanceの検討など更に詳細な電気生理学的解析を行う。今年度明らかにした、シナプス受容体蛋白の異常のメカニズムを、PSD蛋白トラフィックの解析などにより明らかにする。 名古屋大学大学院医学系研究科、天野睦紀博士との共同研究によるCDKL5リン酸化基質のプロテオーム解析スクリーニングを更に行い、結果の再現性を高め、リン酸化基質の機能解析を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度も、Cdkl5 KOマウスの分子細胞生物学的解析、電気生理学的解析、行動解析、等の表現型解析を引き続き行う。そのためマウスの飼育・維持費、上記解析のための試薬類、チューブ、スライドグラス等の実験器具を、消耗品費として使用する。 CDKL5リン酸化基質プロテオーム解析のため、baculovirus発現系を用いたGST標識体の大量発現・精製、実験動物脳サンプルを材料としたクロマトグラフィー+質量分析、及び生化学的実験のための試薬類、実験器具を、消耗品費として使用する。 蛋白相互作用解析、kinaseアッセイのため、細胞培養用の試薬、抗体、酵素、遺伝子導入試薬、チューブ、培養皿・フラスコ、スライドグラス等の実験器具、等を、消耗品費に計上する。 最終年度に当たり研究を更に進め成果をまとめるための研究の打ち合わせや、成果を発表し最新の研究動向の情報を仕入れるための学会への参加のために旅費を使用する。 以上の経費を計上したものを次年度の研究経費として使用する予定である。
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