研究課題/領域番号 |
23500384
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
田端 俊英 富山大学, 理工学研究部(工学), 准教授 (80303270)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ニューロン / シナプス可塑性 / 学習 / 受容体 / 神経科学 / 生理学 / 小脳 / Gタンパク質 |
研究概要 |
申請者グループは先行研究において、小脳プルキンエ細胞が発現する1型代謝型グルタミン酸受容体mGluR1にB型ガンマ・アミノ酪酸受容体(GABAbR)が複合体化しており、脳髄液レベルのGABAを投与するとmGluR1介在性のプルキンエ細胞のグルタミン酸応答性低下が促進されることを報告した。このグルタミン酸応答性低下は小脳関連学習を支えるシナプス可塑性(小脳長期抑圧)の素過程であることから、神経活動依存的な脳髄液GABA濃度の増減に応じて、小脳長期抑圧が促進/阻害され、学習成績が変化する可能性がある。一般に、学習成績には個体差があり、同じ個体においても脳全体の活動等の影響を受けて変化する。GABAbRによるシナプス可塑性の変調は学習効率変化の分子機序の一部である可能性が考えられた。 これらの可能性を検討するため、マウス個体において小脳長期抑圧が関与する視機性動眼反射(OKR)順応学習(物体を追尾する反射性眼球運動の物体に対する追随性がトレーニングにより向上する現象)を測定した。小脳片葉にGABAbRアゴニストを投与した場合、第1日目の1時間トレーニング中の学習成績推移には影響が見られないものの、第2日目のトレーニング開始時に前日に達成した成績が維持されていた。なお、上記測定に用いた測定システムのハード/ソフトウエアを改良し、次年度以降の実験項目においてより高精度にOKR順応学習を解析できる測定システムを開発した。 本研究ではさらに、マウス個体の自発的神経活動により生じた脳髄液GABAの濃度と小脳関連学習の成績の相関を検討しようとしており、そのための高感度の高速クロマトグラフィー-電気化学検出(HPLC-ECD)システムを開発した。開発したシステムはnMオーダーのGABAを検出でき、脳髄液サンプル中のGABAの濃度変化(数十~数百nM)を十分に解析できるものとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)予備実験および本実験を別の実験者群によって実施し、小脳片葉においてGABAbRを薬理学的に活性化させるとmGluR1介在性のOKR順応学習が促進されることを確証した。このことから、本研究において追究している、Gタンパク質共役型受容体群(GABAbR1-mGluR1)の相互作用が学習効率を決める要因の一つである可能性が強く支持された。(2)本研究では自発的神経活動によって生じた脳髄液中GABA等の濃度と学習成績の相関を解析しようとしており、高精度で脳髄液サンプル中のGABA等の濃度とOKR順応学習を測定することが必要になっている。初年度において下記i, iiの通り、これらの実験技術をほぼ完成することができた。したがって次年度以降の研究計画を円滑に遂行することが可能と考えられる。i) アミノ酸のOPA化学修飾プロトコールの最適化、カラム分離時の温度の厳密な管理、カラム分離したアミノ酸の拡散の最小化、電気検出装置の徹底したノイズ低減等により、脳髄液サンプル中のGABA等の濃度変化(数十~数百nM)を十分に検出できるHPLC-ECDシステムを確立した。ii) デジタルカメラを用いた高時間分解能の瞳孔位置検出、および既存の解剖学的データに依存せず個体毎の眼球運動データ自体から眼球運動の標準軌道を算出するアルゴリズムを組み込むことにより、高精度にOKR順応学習の解析が行える測定システムを確立した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては初年度に開発した測定システムを利用して、実験の観測例を増やすことが中心的な課題となる。とくにマウスの自発的な神経活動により生じた脳髄液のGABAの濃度とOKR順応学習の成績との相関関係を解析する。具体的には、成熟マウスに対してOKR順応学習トレーニングを課し、トレーニング中に予め小脳に埋設しておいたプローブを通じてマイクロダイアリシス法により脳髄液を連続採取する。採取したサンプルに含まれるGABA等をOPA化学修飾し、その濃度をHPLC-ECDシステムにより測定する。 上記の実験に使用する実験技術のうちマイクロダイアリシス法は次年度に最適化を行う必要がある。その他の実験技術(OKR測定およびHPLC-ECD)は初年度に開発を完了している。したがって次年度の最初3ヶ月はマイクロダイアリシス法の実験プロトコールの最適化に取り組む。それ以降の9カ月は上記の実験実施に集中的に取り組む。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度においては初年度に開発した測定システムを利用して、実験の観測例を増やすことが中心となる。具体的には以下の実験を多数繰り返す:マウスに対して、脳髄液をサンプルするためのマイクロダイアリシス・プローブを脳内埋設し、OKR順行学習トレーニングを行いながら脳髄液をサンプルし、その中に含まれるGABA等の濃度をECD-HPLCシステムにより測定する。これらの実験を実施するために、消耗品費を実験動物、プローブ、脳髄液サンプルの化学処理用試薬、ECD-HPLCに用いる溶媒、等に充てる必要がある。またHPLCのカラムも1~4回/年の頻度で交換が必要となる(物品費)。なお初~次年度に得られた成果を国内学会で論文として発表したい。そのために国内旅費および、演題登録料が必要となる。
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