研究課題/領域番号 |
23500384
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
田端 俊英 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 准教授 (80303270)
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キーワード | ニューロン / シナプス可塑性 / 学習 / 受容体 / 神経科学 / 生理学 / 小脳 / Gタンパク質 |
研究概要 |
申請者は、小脳プルキンエ細胞の1型代謝型グルタミン酸受容体mGluR1にB型ガンマ・アミノ酪酸受容体(GABAbR)が複合体化しており、脳髄液レベルのGABAを投与するとmGluR1介在性のグルタミン酸応答性抑圧が促進されることを報告した。この応答性抑圧は小脳長期抑圧の素過程であることから、神経活動依存的脳髄液GABA濃度変化に応じて、小脳依存的学習の成績が変化する可能性がある。 この可能性を検討するため、マウスにおいて脳髄液GABAの濃度と視機性動眼反射(OKR)順応学習の成績の相関の解析を目指している。具体的には、高速クロマトグラフィー-電気化学検出(HPLC-ECD)により脳髄液中GABAの濃度を測定し、OKRゲインと比較する。本年度は、HPLC-ECDプロトコールを確立し、校正データを取得し、本実験のリハーサルを行うため、単離マウス小脳細胞培養系が活動依存的に放出するアミノ酸の濃度を測定した。NMDAを滴下してから培養液を回収し、含まれているアミノ酸にo-フタルアルデヒド(OPA)を付加した。HPLCによりアミノ酸を分離し、カーボン電極を通過させた。電極に発生したOPAの酸化還元電流の振幅からアミノ酸濃度を推定した。主として顆粒細胞由来の10 nM以下のグルタミン酸が検出できた。マウス小脳組織より細胞密度が低い培養系においてアミノ酸が検出できたことから、このプロトコールの感度が所期目標に十分であることが分かった。 一方、マシンビジョン式高精度OKR測定システムの開発・改良を行った。このシステムを小脳皮質シナプス伝達に障害がある自然発生突然変異マウス(作出者:医薬基盤研究所竹森ら)に適用したところ、野生型に比してOKRゲインが著しく低いことが分かった。この結果は、測定システムがシナプス変調の小脳機能に対する影響を検出するために十分な精度を有していることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で予定している、マウス個体の自発的神経活動により生じた脳髄液GABAの濃度とOKR順応学習の成績の相関の解析の実施に必要となる、高感度・高精度のアミノ酸濃度測定とOKR測定の技術およびプロトコールが完成した。HPLC-ECDシステムはnMレンジのグルタミン酸が検出できることが分かり、相関解析の実施に十分に高感度なアミノ酸濃度測定が可能であることが分かった。またOKR測定システムは、小脳皮質シナプス伝達障害の影響を検出できることが分かった。したがって、これらの技術を組み合わせることで所期目標の達成が十分可能であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度においては、平成24年度に完成したOKR測定システム、HPLC-ECDシステム、およびこれらの運用プロトコールを利用して、マウスの自発的な神経活動により生じた脳髄液のGABAの濃度とOKR順応学習の成績との相関関係を解析する。具体的には、成熟マウスに対してOKR順応学習トレーニングを課し、トレーニング中に予め小脳に埋設しておいたプローブを通じてマイクロダイアリシス法により脳髄液を連続採取する。採取したサンプルに含まれるGABA等をOPA化学修飾し、その濃度をHPLC-ECDシステムにより測定する。 平成25年度の最初の3ヶ月はマイクロダイアリシス法の最適化に注力する。それ以降の9カ月は、OKR測定システムとHPLC-ECDシステムを組み合わせて、OKR順応学習と脳髄液GABA濃度の相関関係の解析に集中的に取り組む。
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次年度の研究費の使用計画 |
マイクロダイアリシス法の最適化のために、、回収ポンプ、プローブ等の設備・消耗品の購入に充てる。またマウス個体を用いた行動学的および薬理学的実験に取り組むため、実験動物および試薬などの消耗品の購入に充てる。さらにこれまでの成果を学会大会や学術雑誌論文として公表していくために、演題登録料や印刷費に充てる。
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