研究課題/領域番号 |
23500389
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 智美 京都大学, 再生医科学研究所, 研究員 (50373311)
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研究分担者 |
栗崎 知浩 京都大学, 再生医科学研究所, 助教 (90311422)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 神経発生 / 脳 / ErbBシグナル / ゼブラフィッシュ / 視蓋 |
研究概要 |
本研究は、ゼブラフィッシュとマウス脳をモデル系として、神経細胞の産生における、ErbBシグナルの新たな作用機序とその普遍性を明らかにすることを目的としている。 平成23年度は、まず、ゼブラフィッシュ視蓋をモデル系として、(1)ErbB阻害剤処理や(2)ErbB受容体の発現阻害により、1)神経幹細胞である放射状グリア細胞の増殖、核のエレベーター運動、2)神経細胞の分化における影響を調べ、神経細胞産生のどの過程が阻害されているのかを調べた。その結果、(1)と(2)を行った胚の視蓋において、神経前駆細胞の分化が阻害されていることを明らかにした。このことは、ErbBシグナルが、神経細胞の産生過程において、これまでに報告されている、放射状グリア細胞の分化と増殖や、神経細胞の移動ではなく、神経前駆細胞の分化という新たな役割を担うことを示唆している。 ErbB受容体のリガンドであるEGFファミリーに属する増殖因子には、EGF, TGFα, HB-EGF, NRGなどがあり、申請者は既に、発現阻害実験により、ErbBシグナルに対応するリガンド分子を同定している。平成23年度は、このリガンド分子とErbB受容体が、どのように発現にするのかを明らかにした。リガンド分子は、放射状グリア細胞の増殖期から、分化した神経細胞が神経回路を形成し始める時期まで脳室帯で強く発現し、ErbB受容体は、分化した神経細胞が産生され始める時期の視蓋で、神経前駆細胞が分布する脳室下帯に広く発現することが判明した。また、リガンド分子の膜結合型アイソフォームに特異的な発現阻害によって、視蓋神経細胞の発生が阻害されたことから、放射状グリア細胞で発現するリガンド分子が、神経前駆細胞で発現するErbB受容体を介して神経前駆細胞の分化を制御するという、新たな分子機構が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度は、ゼブラフィッシュ視蓋をモデル系として、(1)ErbB阻害剤処理や(2)ErbB受容体の発現阻害、(3)ドミナントネガティブ型ErbBの過剰発現により、1)神経前駆細胞の分化、2)放射状グリア細胞核のエレベーター運動、3)細胞周期における影響を調べ、神経細胞産生のどの過程がどのように阻害されているのかを明らかにすることを目的とした。in situ hybridizationにより、神経幹細胞、神経前駆細胞、神経分化マーカーの発現を調べ、(1)と(2)の視蓋において、神経前駆細胞の分化が阻害されていることを明らかにした。エンハンサートラップ系統SAGFF(LF)81CにUAS:kaedeをインジェクションした胚のタイムラプス画像解析により、(1)の視蓋において、放射状グリア細胞核のエレベーター運動と分裂は起こっていることを示した。リン酸化ヒストンに対するpH3抗体の免疫染色により、(2)の視蓋においても、放射状グリア細胞の分裂は起こっていることが分かった。以上の結果から、ErbBシグナルは、神経前駆細胞の分化を制御していることが明らかにされた。3)については、zFucci系統を用いて解析を行ったが、明瞭な結果は得られていない。 また本研究は、リガンド分子が、神経細胞の発生にどのような役割を果たすのかについても明らかにすることを目的としている。平成23年度は、in situ hybridizationによる解析を行い、リガンド分子は、受精後24時間から脳室帯で強く発現し、ErbB受容体は、受精後36時間で神経前駆細胞が分布する脳室下帯に広く発現することを示した。(1)リガンド分子の細胞外/細胞内ドメインに対する抗体を用いた免疫染色、(2)分泌型、非切断型リガンド分子の過剰発現による神経細胞の産生における影響の解析は、現在進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
ゼブラフィッシュ視蓋をモデル系としたErbB受容体の機能解析については、(3)ドミナントネガティブ型ErbBの過剰発現による1)神経前駆細胞の分化における影響について解析する。3)細胞周期における影響については、zFucci系統を用いた解析を行ったが、(1)ErbB阻害剤処理や(2)ErbB受容体の発現阻害によって明確な変化が見られないため、一旦中断する。 今後は、ErbB受容体のリガンド分子が、1)いつ、どの細胞で発現し、2)切断による活性制御が、神経細胞の発生にどのような役割を果たすのか、について重点的に解析を行い、(1) リガンド分子の細胞外/細胞内ドメインに対する抗体の免疫染色による視蓋における局在(2) 分泌型、非切断型リガンドの過剰発現による、神経細胞の産生における影響を明らかにし、ErbB受容体を介した増殖因子シグナルが、神経細胞の産生をどのように制御しているのかを明らかにする。また、このリガンド分子の役割が、神経細胞の産生を制御する上で必要十分であるかを明らかにするため、リガンド分子の組換えタンパク質をインジェクションし、視蓋神経細胞の産生が誘導されるかを調べる。 さらに、ゼブラフィッシュ視蓋で明らかにされたErbBシグナルの作用機序が、他の脳部位やマウス脳においても保存されているかについても解析を行う。まず、ゼブラフィッシュの全神経細胞が蛍光タンパク質Kaedeで可視化されたトランスジェニック系統Tg(huC:Kaede)を用い、前脳や小脳、網膜の神経細胞産生において、視蓋と同様の表現型が観察されるかを調べる。次に、マウス脳の発生過程でErbB阻害剤を投与し、ゼブラフィッシュ視蓋における表現型を指標に、大脳皮質における神経細胞の産生にどのような影響を及ぼすのかを調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、ゼブラフィッシュ脳における解析に必要な実験機器、実験機具、消耗品、分子生物学実験に用いる試薬類(酵素、キットなど)、組織化学実験に用いる試薬類(抗体、阻害剤、染色キットなど)を購入するほか、必要に応じて、ゼブラフィッシュトランスジェニック系統を購入するのに使用する。 また、マウス脳における解析に必要な実験器具、消耗品、試薬類(抗体、阻害剤)や、マウスの購入費としても使用する。 さらに、研究打合わせや研究成果発表のための学会参加費、交通費、宿泊費や、論文投稿のための英文校閲費、論文投稿料にも使用する予定である。
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