研究課題/領域番号 |
23500390
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大塚 俊之 京都大学, ウイルス研究所, 准教授 (20324709)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 発生・分化 / 脳・神経 / 神経科学 / 再生医学 / 幹細胞 |
研究概要 |
胎生期の神経幹細胞をHes1プロモーター:EGFPにより可視化したトランスジェニックマウスの終脳から、異なる発生段階(幹細胞増殖期、深層ニューロン産生期、浅層ニューロン産生期、グリア産生期)及び異なる脳領域のGFP陽性幹細胞をFACSにより回収し、マイクロアレイを用いたGene Expression Profilingを行い、各発生段階及び領域特異的な遺伝子発現を網羅的に探索したデータを基に、特定の発生段階或いは脳領域に特異的に発現し、層特異性及び領域特異性を規定する可能性のある遺伝子の探索を行った。候補となる遺伝子の発現パターンをin situ hybridizationにより解析し、深層ニューロン・浅層ニューロンへの特異化、脳の領域特異性の形成への関与が示唆される遺伝子の候補を更に絞り込み、機能解析を行った。In Utero Electroporation法を用いた強制発現・ノックダウン実験等により、生体 (in vivo) における神経分化及び遊走、層形成における機能の解析を行い、神経分化抑制活性を示す遺伝子に加え、遊走異常・層構造の異常を示す遺伝子がいくつか得られた。Tcf3及びKlf15に関して、強制発現・ノックダウン後に神経前駆細胞培養及びneurosphere assayを行い、神経幹細胞維持の活性を確認した。更に分化アッセイにおいて、Klf15ノックダウン細胞から形成されたneurosphereからは、ニューロンの分化が殆ど認められずグリア細胞(アストロサイト及びオリゴデンドロサイト)のみからなるコロニー形成を認めた。これらの結果から、Tcf3は主に発生初期に、Klf15は主に発生後期において神経幹細胞を維持する働きがあり、Klf15はニューロン分化能を保持した神経幹細胞の維持に重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特定の発生段階或いは脳領域に特異的に発現し、層特異性及び領域特異性を規定する可能性のある遺伝子の候補が多数得られ、まず転写因子に絞って発現パターンと機能解析を進めた。これまでに神経分化抑制活性を示す遺伝子に加え、遊走異常・層構造の異常を示す遺伝子がいくつか得られている。強制発現・ノックダウン実験において興味深い活性を示した数種類の遺伝子に絞って、神経前駆細胞培養及びneurosphere assayを加えた機能解析を進め、ニューロン分化を抑制し神経幹細胞の維持に働く遺伝子として、Tcf3とKlf15を同定した。以上の結果をまとめ、論文に報告した (Stem Cells. 2011 Nov;29(11):1817-28) 。初年度の研究計画は着実に遂行され、十分な成果が得られたと考える。これまでの解析により神経幹細胞の分化、ニューロン分化を制御する遺伝子は得られたが、層特異性及び領域特異性を規定する遺伝子の同定には至っておらず、その同定及び機能解析が今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
今後はTcf3, Klf15が神経幹細胞を維持するメカニズムの解明に向け、これらの因子の下流で機能する遺伝子及びシグナル伝達経路の解析を進める。また、これらの候補遺伝子の発現を任意にコントロールする遺伝子改変マウス (Tet-On systemを用いたトランスジェニックマウス) の作製を行い、胎生期の特異的時期における各遺伝子の発現変動が脳の形態形成(脳のサイズや層形成)及び神経回路形成に及ぼす影響を解析する。また、他の候補遺伝子の中から、深層ニューロン・浅層ニューロンへの特異化、脳の領域特異性の形成への関与が示唆される遺伝子の候補を絞り、機能解析を進める予定である。層特異性及び領域特異性を規定する遺伝子が得られれば、層特異的・領域特異的ニューロンの選択的除去による神経回路及び脳機能の解析に進みたい。更に、Tet-On systemを用いて特定の発生段階でコンディショナルにHes1の発現を操作することにより神経幹細胞の分化を抑制し、脳の形態形成(層構造や領域形成)にどのような影響を及ぼすか、各層及び領域のマーカーを用いて解析する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に消耗品(分子生物学用試薬・細胞培養用試薬・免疫組織(細胞)化学用試薬(各種抗体等)・実験動物(マウス購入・維持費用)・プラスチック製品等)に使用する。特に遺伝子改変マウス作製及び維持・解析に多くの費用が見込まれる。また一部はデータ整理及び成果発表にかかる費用(データ印刷・複写費、現像・焼付費、学会参加のための国内旅費)として使用する予定である。
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