研究課題/領域番号 |
23500390
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大塚 俊之 京都大学, ウイルス研究所, 准教授 (20324709)
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キーワード | 発生・分化 / 脳・神経 / 神経科学 / 再生医学 / 幹細胞 |
研究概要 |
前年度までに、マウス胎児終脳の神経幹細胞において特定の発生段階に特異的に発現する遺伝子の網羅的探索を行い、神経分化抑制活性を示す遺伝子、遊走異常・層構造の異常を示す遺伝子を同定した。更に機能解析を進め、ニューロン分化を抑制し神経幹細胞の維持に働く遺伝子として、Tcf3とKlf15を同定した (Stem Cells. 2011 Nov;29(11):1817-28) 。 今年度はTcf3, Klf15が神経幹細胞を維持するメカニズムの解明に向け、これらの因子の下流で機能する遺伝子及びシグナル伝達経路の解析を進めた。これらの因子の強制発現及びノックダウンを行った細胞で、いくつかの転写因子において発現変動を認めた。また、神経幹細胞においてTcf3, Klf15の発現を任意にコントロールする遺伝子改変マウス (Tet-On systemを用いたトランスジェニックマウス) の作製を試みた。現在までに得られたマウスのラインにおいては、脳室周囲帯における発現が弱くモザイク状であり、詳細な機能解析にはより均一な発現を示すラインを得る必要がある。 更に、Tet-On systemを用いて特定の発生段階でコンディショナルにHes1の発現を操作するトランスジェニックマウスを作製した。このマウスでは神経幹細胞の存在する脳室周囲帯にHes1及びd2EGFPのほぼ均一な発現を認めた。Hes1の高発現により神経幹細胞の未分化性が維持されたことにより、野生型に比べ脳室及び脳室周囲帯の拡大が認められ、皮質板のニューロンが減少していた。また大脳皮質領域において、野生型マウスに比べてより遅い時期までニューロン産生が続き、分化したニューロンは皮質浅層に位置していた。胎生期におけるTbr2陽性のintermediate progenitorが減少しており、皮質深層に比べ皮質浅層ニューロンの層の菲薄化が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Tcf3, Klf15が神経幹細胞を維持するメカニズムの解明に向け、これらの因子の下流で機能する遺伝子及びシグナル伝達経路の解析を進め、強制発現及びノックダウンにより発現変動を示す転写因子をいくつか認めた。Tet-On systemを用いてTcf3, Klf15の発現を制御するトランスジェニックマウスの作製を試みたが、神経幹細胞において均一な発現を示すマウスは得られていない。Tet-On systemを用いてHes1の発現を操作するトランスジェニックマウスの作製は順調に進み、神経幹細胞の存在する脳室周囲帯にほぼ均一に発現するマウスが得られた。このマウスの解析を進め、Hes1によるニューロン分化抑制活性による神経幹細胞の維持、脳室及び脳室周囲帯の拡大を認めた。更にニューロン産生時期の遷延、皮質浅層ニューロンの層の菲薄化等の解析まで進んでいる。 Hes1の高発現による細胞増殖抑制の結果、ニューロン数の増加には至っておらず、今後はHes1の発現時期、発現量を様々にコントロールすることによる詳細な解析が課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
Tcf3, Klf15が神経幹細胞を維持するメカニズムの解明に向けては、強制発現及びノックダウンによる転写因子の発現変動をもとに、下流候補因子のプロモーターに対する活性の解析を含め、シグナル伝達経路の解明を進める予定である。Tet-On systemを用いてHes1の発現を制御するトランスジェニックマウスにおいては、Hes1の高発現によるbasal progenitor, OSVZ progenitor産生への影響や成体脳における神経幹細胞維持効果、ニューロン産生が遷延するメカニズム等の解明に向けて、更に詳細な解析を進める。またHes1の発現時期、発現量をコントロールすることにより、顕著な細胞増殖抑制を示さない条件を検討し、神経幹細胞の増加とともにニューロン数の増加、脳の表面積の拡大を誘導可能か、Hes1の発現パターンの変化が層構造にどのような影響を及ぼすか検討する。更に、Hes1同様神経幹細胞維持活性が認められる活性型Notch, Hes5をTet-On system制御下で発現するトランスジェニックマウスを作製し解析する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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