研究実績の概要 |
注意・視覚探索の工学モデルでは、視覚的顕在性にもとづいて物体が選択され、その物体位置に注意や視線が向けられると考えられている(Koch & Ullman, 1985; Itti & Koch, 1999)。このモデルが正しいとすれば、視覚刺激が呈示されてからサッカード眼球運動が生じるまでの潜時は、「刺激特徴を利用して目標を選択するための期間(pre-discrimination interval)」と「選択した目標に対してサッカードを起動させるための期間(post-discrimination interval)」に分割できるはずであり、前者の期間は探索難易度に応じて変化するが、後者の期間は刺激に関係なく一定時間になる。 この仮説を検証するため、複数刺激の中から色の異なる目標刺激を探す視覚探索課題をニホンザルに遂行させ、頭頂間溝外側壁領域(the lateral intraparietal are: LIP)からニューロン活動を記録した。実験では、刺激輝度(Blight vs. Dim)と目標/妨害刺激の色コントラスト(Easy vs. Difficult)を操作して4種類の刺激条件をつくり、とくにBlight-DifficultとDim-Easyの2条件では平均サッカード潜時が同一になるように刺激パラメータを調整した。目標選択とサッカード運動準備のプロセスが独立であるならば、2つの刺激条件においてpost-discrimination intervalの長さは同一になると予想され、この仮説を実験的に検証した。 実験の結果、我々はBlight-DifficultとDim-Easyの2条件においてpost-discrimination intervalの長さが異なることを見出した。このことは、目標選択と眼球運動準備に関わる神経プロセスが独立でないこと、さらに、post-discrimination intervalの長さが刺激特徴(輝度)にもとづいて変化することを示唆する。これらの結果は、サッカード潜時が同じであっても、脳内において目標選択が生じる時刻が必ずしも一致しないことを示唆している。
|