研究課題
本研究の主目標は、記憶形成に際してシナプスの形成及び解消が起こる場所を特定し、そのプロセスにおける睡眠の役割を明らかにすることである。記憶は、脳内において、シナプスの形成、すなわちニューロン間の連結として蓄えられるものと考えられる。2011年において私達は、ハエの長期記憶の形成に際して、Homer、Staufen、Activinなど数種類のシナプス蛋白が脳の特定の部位で急速に合成されること、その部位が嗅覚の記憶の場とされるマッシュルーム体であることを明らかにした。この成果は、都神経研の斉藤実博士の研究室との共著の論文中に記載、報告したところである。更に私達は,マッシュルーム体中のシナプスを直接映像として同定して、記憶形成に伴うシナプスの形成と解消を明らかにすべく、共焦点顕微法とコンピューターソフトの開発にあたった。次年度には、更に免疫組織化学技術を改善し、記憶形成に伴うシナプスの形成及び解消の経時的変化を明らかにする予定である。上記の研究と平行して、脳のシナプスに対する睡眠の影響の解析をおこなった結果,睡眠はシナプス数を減少させるという結果を得た。現在、睡眠時間の短い突然変異体での解析を行っている。次年度には,これらの研究結果を総合して,睡眠が記憶形成に際していかにシナプス数を調節しているかを明らかにしたい。
2: おおむね順調に進展している
2011年度において我々は他研究室との共同研究を積極的に進め,その結果4編の論文を出版した。先ず,睡眠量の減少した変異体3個を分離し、その解析から、Caシグナリングが睡眠の制御に重要な役割を果たしていることを明らかにした。Caシグナリングは記憶形成に必要なことが知られており、我々の得た結果は睡眠と記憶形成をつなげる機構の存在を示している。第2に我々は、長期記憶形成に関わるシナプス蛋白と脳内領域を同定することができた。これによって、これらシナプス蛋白の動向に対する睡眠の影響を調べ、睡眠と記憶形成の関係の解明に向かう可能性が開けた。第3に、インスリン/インスリン様成長因子のシグナリングが、記憶形成に重要なことを明らかにした。インスリンシグナリングは、シナプス形成に関わっている可能性があり、我々はインスリンシグナリングに対する睡眠の影響を調べる予定である。以上の研究結果から,我々の研究進行状況は良好であると考える。
2011年度までは,長期記憶の形成と睡眠については。それぞれを別々に研究してきたが、2012年度においてはこれを統合し両者がいかに関係し合っているかを研究する。先ず記憶形成においてシナプスの形成と解消を、野生型ハエと睡眠障害変異体とで比較する。特に,記憶形成のどの側面―シナプスの形成と解消のどちらーが睡眠障害の影響を受けるのかを明らかにしたい。シナプス形成過剰変異と過少変異のいずれが睡眠に影響するのか、更には睡眠は、記憶を永久的な状態にまで統合するために必要なのか、あるいはシナプス数を本来のレベルまで下げて次の新たな記憶の形成に備えるために必要なのかを明らかにしたい。
上述の諸課題の遂行のために、先ず、ハエの睡眠について新たな測定法を確立する必要がある。こために、赤外線ビデオカメラ、コンピューター、及びビデオ.トラッキング.ソフトウエアーを購入する。第2に、記憶形成及び睡眠に際しての脳のシナプスの変化を定量するために、シナプスのより正確な測定法を開発する必要がある。共焦点顕微像に現れる多数のポジテイブシグナルを分離,計測するためのコンピューター.ソフトウエアー(Imarissoftware,Bitplanesystems)を購入する予定である。また,免疫組織化学的実験のために、各シナプス蛋白に対する抗体を購入する必要がある。最後に我々は、リポーター蛋白(GFP、ルシフェラーゼ)を発現するトランスジェニックのハエの作成、使用を予定しており、そのための分子生物学的試薬を購入する、
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Neuron
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