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2012 年度 実施状況報告書

記憶統合における睡眠の役割 ー ショウジョウバエによる解析

研究課題

研究課題/領域番号 23500394
研究機関首都大学東京

研究代表者

堀内 純二郎  首都大学東京, 理工学研究科, 研究員 (80392364)

キーワード長期記憶 / 学習 / 睡眠 / 加齢性記憶障害 / 老化 / ショウジョウバエ
研究概要

私の研究室では、ショウジョウバエを用いて記憶形成と睡眠の関係を研究している。平成24年度においては、種々のタイプの記憶に対する睡眠阻害の影響を測定した結果、学習に先立っての睡眠阻害は記憶形成に影響せず、学習訓練の後での睡眠阻害が長期記憶の形成を著しく低下させることを明らかにした。また、学習訓練後の長期記憶形成中には、homer, Staufen, Activin等を含むいくつかのシナプス蛋白が速やかに合成されることがわかった。更にこれらの蛋白が、ショウジョウバエの脳内で記憶形成や睡眠にとって重要な部位であるキノコ体で合成されることを明らかにした。この研究は、平成24年度に論文発表し、学習時におけるこれら蛋白の合成に対する睡眠阻害の影響について研究を続行している。
これと平行して、カルシニューリン変異体における記憶形成を調べている。これらの変異体では、睡眠が著しく阻害されるにもかかわらず、意外にも長期記憶形成はほぼ正常である。我々は、カルシニューリンが長期記憶形成を阻害することを見出だしたので、カルシニューリン変異体における記憶形成が正常なのは、カルシニューリン活性の低下による記憶の促進と睡眠阻害による記憶の阻害の相乗効果として説明される。
別の研究課題として、ショウジョウバエを用いて加齢性記憶障害(AMI)のメカニズムを研究している。我々の研究から、加齢に伴ってグリア蛋白であるピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)のレベルが上昇することがわかった。PCのレベルを下げるとAMIが遅れ、PCレベルを人為的に上げてやると、AMIの開始が促進されれた。我々のこれらの研究結果は、AMIが、ニューロン活性に対するグリア細胞からの支援が加齢により変調を来たした結果であることを示しており、これらの研究結果は論文として現在投稿中である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

我々の研究は、2012 及び 2013 年中に5編の論文として、すべて査読による学術雑誌に発表された。
第一に、長期記憶(LTM)の形成には、特定の シナプス蛋白の7倍もの増加を伴うことを明らかにした。更に、このシナプス蛋白の増加は、ハエ脳内での長期記憶形成に重要とされているキノコ体で起きることを示した。
第二に、ハエの加齢記憶障害(AMI)は酸化ストレスによって左右されないことを示した。記憶に関して、酸化的障害は、加齢による障害とは異なる相で働く。
これらの論文に加え、長期記憶形成のメカニズム、記憶形成解析用の脳のin vitro 培養系の開発、記憶形成におけるインシュリンシグナリングの役割、に関する3編の論文に重要な貢献をした。
これらの論文発表状況に基づき、我々の研究の進捗状況は良好と判断する。

今後の研究の推進方策

平成25年度において我々は3つの課題を追求する予定である。
1. 長期記憶(LTM)依存性シナプス蛋白の合成における睡眠の役割。睡眠の役割は現在分子レベルでは解っていない。しかしながら我々は、睡眠もシナプス蛋白の合成も共に長期記憶形成に必要なことを示した。そこで、睡眠はシナプス蛋白の合成に必要なのか、長期記憶形成中に起こるシナプス蛋白の分解に必要なのかを調べる。
2. 覚醒時と睡眠時で活性の異なる脳内部位の同定。ハエの睡眠は従来ハエの移動活性をモニターすることによって測定していたが、我々は自然状態のハエのさまざまな
脳内領域での活性を測定することによって、覚醒と睡眠を関係づけられるような領域を同定したい考えである。
3. 加齢に伴う睡眠量の変化を測定し、その変化と加齢性記憶障害(AMI)の関係を明らかにする。ハエは加齢に伴い睡眠時間が減る。この現象がAMIの原因であるのか否かを、老齢のハエに人為的に睡眠をとらせてAMIが改善されるかを見ることにより明らかにする。

次年度の研究費の使用計画

ショウジョウバエの睡眠は従来ハエ活動モニターによって測定されてきた。この装置は1個の赤外線センサーを用いてハエの移動活動を測るものであるため、ハエが特定の場所で動いたときにだけ反応するので、睡眠をオーバーエステイメートする傾向が強く、余り正確でない。平成25年度の私の研究補助金の一部を用いて、多数の(16)高感度センサーを持つ新型のモニターを購入したいと考える。これによって、長期記憶形成時や加齢に伴う睡眠量のわずかな変化が検出可能になると期待される。
覚醒時と睡眠時とで活性の異なる脳内領域を同定するため、私はCaイオンで活性化される蛍光蛋白を脳内のいろいろな場所で発現させ、数日間にわたって蛍光を測定する計画である。蛍光蛋白aequorinは Ca イオン存在下にのみ発光するのでCa イオンの内部センサーとして用いることができる。aequorine の発光には Ca イオンの他に基質セレンテラジン(coelenterazine)が必要で、これはハエの餌に入れて食べさせなければならない。セレンテラジンの購入が予定される。
さらに残りの補助金はハエの飼育費に当てられ、またシナプス蛋白検出用の抗体の購入に当てられる。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2013 2012

すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件)

  • [雑誌論文] Fasting launches CRTC to facilitate long-term memory formation in Drosophila.2013

    • 著者名/発表者名
      Hirano, Y., Masuda, T., Naganos, S., Matsuno, M., Ueno, K., Miyashita, T., Horiuchi, J., Saitoe, M.
    • 雑誌名

      Science

      巻: 339 ページ: 443-446

    • DOI

      doi: 10.1126/science.1227170.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Long-term enhancement of synaptic transmission between antennal lobe and mushroom body in cultured Drosophila brain.2013

    • 著者名/発表者名
      Ueno, K., Naganos, S., Hirano, Y., Horiuchi, J., Saitoe, M.
    • 雑誌名

      J Physiol.

      巻: 591 ページ: 287-302

    • DOI

      doi: 10.1113/jphysiol.2012.242909.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Mg2+ block of Drosophila NMDA receptors is required for long-term memory formation and CREB-dependent gene expression.2012

    • 著者名/発表者名
      Miyashita, T., Oda, Y., Horiuchi, J., Yin, J. C-P., Morimoto, T., Saitoe, M.
    • 雑誌名

      Neuron

      巻: 74 ページ: 887-898

    • DOI

      doi: 10.1016/j.neuron.2012.03.039.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Mutations in the Drosophila insulin receptor substrate, CHICO, impair olfactory associative learning.2012

    • 著者名/発表者名
      Naganos, S., Horiuchi, J., Saitoe, M.
    • 雑誌名

      Neurosci Res.

      巻: 73 ページ: 49-55

    • DOI

      doi: 10.1016/j.neures.2012.02.001.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Reactive oxygen species are not involved in the onset of age-related memory impairment in Drosophila.2012

    • 著者名/発表者名
      Hirano, Y., Kuriyama, Y., Miyashita, T., Horiuchi, J., Saitoe, M.
    • 雑誌名

      Genes Brain Behav.

      巻: 11 ページ: 79-86

    • DOI

      doi: 10.1111/j.1601-183X.2011.00748.x.

    • 査読あり

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公開日: 2014-07-24  

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