研究課題/領域番号 |
23500396
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
松田 賢一 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40315932)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 脳の性差 / 性分化 / エストロゲン / アンドロゲン / エピジェネティックス / ヒストンアセチル化 / ヒストン脱アセチル化 / DNAメチル化 |
研究概要 |
脳の性差は出生前後に精巣由来のアンドロゲンの作用を受けるか否かで恒久的に構築されるが、このアンドロゲンの効果を成体まで維持する分子機構は不明であった。研究代表者は、従来の研究で、ヒストンアセチル化とDNAメチル化のエピジェネティック制御が、この機構の本体であることを示してきた。本研究申請では、脳の性分化過程の出生前後から成熟後までの時間軸の中で、ヒストンアセチル化とDNAメチル化といった、異なるエピジェネティック機構がどのように相互作用することで、脳の性分化が成し遂げられるのか解明を行う。平成23年度は、各エピジェネティック修飾の継時的変動の解析と、エピジェネティック機構の阻害薬を投与した場合の影響を検証するための資料集めを行った。胎児期から成体まで時間経過を追って、脳の性差に関わる領域を選択的に回収し、脳の性分化に必須のエストロゲン受容体遺伝子のエピジェネティック修飾のプロファイルを、クロマチン免疫沈降法を用いてヒストンアセチル化の程度を、バイサルファイトマッピング法でDNA メチル化の程度を解析した。その結果、ヒストンアセチル化がDNAメチル化修飾に先んじて起きることを明らかにした。ヒストンアセチル転移酵素またはヒストン脱アセチル化酵素を阻害した場合、このエピジェネティック修飾プロファイルに変化が起きるか明らかにするために、両酵素の阻害薬を生後に脳室内投与した個体から、同様に脳領域を回収した。以上の成果を、日本神経科学会、日本解剖学会、環境ホルモン学会、Sino-Japan Symposium on Integrative Behavioral Scienceで発表し、注目を集めた。さらに、学術論文として内分泌学領域の学術雑誌に1編、総説として生命科学・内分泌学領域の学術雑誌に2編発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度は、各エピジェネティック修飾の継時的変動の解析と、エピジェネティック機構の阻害薬を投与した場合の影響を検証するための資料集めを行った。交付申請書「研究の目的」には、各エピジェネティック修飾の継時的変動の解析は入っていなかったが、採択後、本研究を実行するためには、基本データーとして薬剤を投与しない定常状態でのエピジェネティック修飾の継時的変動が必要であると考え、本実験を追加したため、予定より若干遅れている。結果として、ヒストンアセチル化がDNAメチル化修飾に先んじて起きることが明らかになり、本研究遂行のための重大な情報を得ることができた。交付申請書「研究の目的」に書かれた、エピジェネティック機構の阻害剤を投与した動物の脳組織の回収(成体での性行動発現に与える影響の解析後)は終了しており、エピジェネティック修飾の量的解析にすぐに着手できる状態である。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、エピジェネティック機構の阻害剤を投与した動物の脳組織の回収は終了している。一方、現在までに行った、エピジェネティック修飾の継時的変動の解析において、エピジェネティック修飾のプロファイリングの方法を見直し、いくつかの改善を加えたため研究の遂行に必要とする時間が短縮されている。したがって、交付申請書「研究の目的」より、やや遅れている研究の進行度合は、次年度中に取り戻せると考える。交付申請書作成時には、入手することができなかった、より選択的に作用し、また、脳内に直接投与しても高い活性を示すことが報告された、新たなヒストンアセチル転移酵素の阻害剤(C646)を入手することができた。この薬剤の使用によって、より明確な結果が得られるものと予想している(行動実験においてはすでに良好な結果を得ている)。したがって、本研究申請は研究期間(平成23年-平成25年)内に実行され、脳の性分化の本質的理解に大きく貢献するものと確信している。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究申請は、すべて研究機関現有の設備備品を用いて遂行可能である。したがって、平成24年度請求の研究費の多くを、実験を実行するための消耗品の購入に充てる。そのうちわけは、エピジェネティックプロファイル解析のために必要な、一般試薬(アルコール類、塩類など)、生化学・分子生物学試薬(キット)、遺伝子配列計測費用やプラスチック製品などである。必要最小限の実験動物の購入も行う。現在までにいくつかの重要な研究結果が出ており、今後も引き続き研究成果が得られると予想される。これらの成果を発表するための学会参加の旅費を研究費の一部から充てる。上記のように、研究の到達度がやや遅れているので当初使用予定の消耗品費を使用していない。平成23年度請求の研究費の次年度使用分は、消耗品費、特に生化学・分子生物学試薬の購入、および遺伝子配列計測費用に充てる。
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