研究課題/領域番号 |
23500396
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
松田 賢一 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40315932)
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キーワード | 脳の性差 / 性分化 / エストロゲン / アンドロゲン / エピジェネティックス / ヒストンアセチル化 / ヒストン脱アセチル化 / DNAメチル化 |
研究概要 |
脳の性差は出生前後に精巣由来のアンドロゲンの作用を受けるか否かで恒久的に構築されるが、このアンドロゲンの効果を成体まで維持する分子機構は不明であった。研究代表者は、従来の研究で、ヒストンアセチル化とDNAメチル化のエピジェネティック制御が、この機構の本体であることを示してきた。本研究申請では、脳の性分化過程の出生前後から成熟後までの時間軸の中で、ヒストンアセチル化とDNAメチル化といった、異なるエピジェネティック機構がどのように相互作用することで、脳の性分化が成し遂げられるのか解明を行う。平成23年度までに、胎児期から成体までの性分化の時間経過の中において脳の性差に関わる領域(内側視索前野,MPO)で脳の性分化に必須のエストロゲン受容体遺伝子のエピジェネティック修飾のプロファイルを解析し、ヒストンアセチル化がDNAメチル化修飾に先んじて起きることを明らかにした。平成24年度は、ヒストン脱アセチル化酵素を阻害した場合、このエピジェネティック修飾プロファイルに変化が起きるか明らかにするために、ヒストン脱アセチル化酵素の阻害薬を生後に脳室内投与した個体から成体期にMPOを回収し、クロマチン免疫沈降法を用いてヒストンアセチル化の程度を、バイサルファイトマッピング法でDNA メチル化の程度を解析した。その結果、阻害薬投与によりヒストンアセチル化が上昇し、次いでDNAメチル化の雄性化が阻害されることが明らかになった。すなわち、脳の性差形成過程において、ヒストンのアセチル化がDNAのメチル化といった別のエピジェネティックス機構に影響を与える上下関係が存在することが示唆された。以上の成果をもとに、日本行動神経内分泌研究会、日本神経内分泌学会、日本神経科学会、日本解剖学会で発表し、注目を集めた。さらに、学術論文として神経科学領域の学術雑誌に3編、細胞生物・生化学領域の学術雑誌に1編発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度は、発達期における脳の性分化のエピジェネティック機構間相互作用の解析を行った。脳の性差形成過程において、ヒストンのアセチル化がDNAのメチル化といった別のエピジェネティックス機構に影響を与える上下関係が存在することを示した。研究計画の半分は完了したことになる。ただし、平成23年度に、研究調書研究計画には入っていなかった、各エピジェネティック修飾の継時的変動の解析を、採択後に本研究を実行するためには必要であると考え、本研究を追加したため、予定より若干遅れている。結果として、ヒストンアセチル化がDNAメチル化修飾に先んじて起きることが明らかになり、平成24年度の解析に必須の基礎データーとなった。ゆえに、研究調書では、平成24年度に成体期における脳の性分化のエピジェネティック機構間相互作用の解析を行う計画であったが、実行できていない。平成25年4月現在、成体期の解析に着手し、サンプルの回収をはじめており、計画達成のために尽力している。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに行った、エピジェネティック修飾の継時的変動の解析において、エピジェネティック修飾のプロファイリングの方法を見直し、いくつかの改善を加えたため研究の遂行に必要とする時間が短縮されている。また、次年度は、実験助手の補助を得てより迅速に解析を実行する予定である。したがって、研究調書研究計画より、やや遅れている研究の進行度合は、研究期間内に取り戻せると考える。研究調書作成時には、その存在が報告されていなかった、新たなヒストンアセチル転移酵素の阻害剤(C646)を入手、脳の性分化時に脳室内に投与し、成熟後の性行動の解析を行った。その結果、ヒストンアセチル転移酵素の活性も脳の性分化に重要であることを示唆するデーターを得た。今後、ヒストンアセチル化・脱アセチル化の相互作用についても検討し、研究計画よりさらに発展した包括的研究展開を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究申請は、すべて研究機関現有の設備備品を用いて遂行可能である。したがって、平成25年度請求の研究費の多くを、実験を実行するための消耗品の購入に充てる。そのうちわけは、エピジェネティックプロファイル解析のために必要な、一般試薬(アルコール類、塩類など)、生化学・分子生物学試薬(キット)、遺伝子配列計測費用やプラスチック製品などである。必要最小限の実験動物の購入も行う。上記のように、研究の到達度がやや遅れているので、次年度は実験助手に補助を依頼し、迅速に解析を進める予定である。その謝金に研究費の一部を充てる。研究がやや遅れているために繰越となった平成24年度請求の研究費は、消耗品費、特に生化学・分子生物学試薬の購入、および遺伝子配列解析費用に充てる。現在までにいくつかの重要な研究結果が出ており、今後も引き続き研究成果が得られると予想される。これらの成果を発表するための学会参加の旅費を研究費の一部から充てる。
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