研究課題
本研究では、発症早期の未治療パーキンソン病(PD)患者の意思決定の神経メカニズムを神経経済学(Neuroeconomics)の方法論を用いて検討する。PDではドパミン補充療法下での行動異常が注目を集めているが,これはドパミン補充療法、ことに過度の非生理的なドパミン受容体刺激に伴って出現している特殊な患者群の問題と考えられる。研究代表者は臨床的にみられる発症早期の未治療PD 患者での行動特性から,PDではむしろ損失回避特性や低攻撃性が亢進している可能性を重要な仮説として位置づけている。平成23年度はパイロット研究としてPD患者8例と健常者10例に検査(神経経済学的課題負荷:新規の金銭報酬予測パラダイムによるfunctional-MRI:f-MRI)を実施した。f-MRI を用いる研究プロトコールでは,視覚提示などの方法で刺激を繰り返しおこない,その反応を集計・分析すると共に,刺激提示から回答までの一連の脳活動を統計画像解析により分析する。解析のターゲットは、線条体、中脳辺縁系・中脳皮質系、特に嗅覚障害との関連で注目を集めている扁桃体の活動性であり、その生理的な役割を明らかにし、PDのもつ神経心理的な病態解明を目指す。健常者に関してはデータ解析を完了し、そのデータをふまえ、平成24年度は発症(診断)直後、未治療のPD患者9名にてf-MRI検査を実施した。さらにこれらのPD患者群ではL-dopa 治療開始前と後に同一の検査を繰り返して実施した。f-MRIを用いて治療前後の脳活動状態を比較・検討することから、ドパミン補充療法やドパミン神経系の関与が明らかになると考えられる。これらの試みは、神経心理学的な病態の解明や、それに対する新規の治療法、さらにはPDの早期診断につながる可能性が期待される。
3: やや遅れている
平成23~24年度の計画では、PD患者群と健常群、各々20例程度に検査(神経経済学的課題負荷:新規の金銭報酬予測パラダイムによるfunctional-MRI:f-MRI)を実施する予定であったが、現時点で、PD患者:計15例と健常者:計10例の検査施行にとどまっている。研究の対象者は、当院神経内科通院中もしくは入院中での未治療PD患者のうち、40 歳以上75 歳未満で、文書による同意が得られた患者である。しかしながら、該当する患者数が想定より少ないことから、未使用額が発生している。未使用額は、平成25年度も継続して実施する検査の費用、検査・f-MRIのデータ解析に関わる人件費、謝金、ならびに新規の神経経済学的課題・倫理判断課題などの神経心理学的検査(f-MRI検査に使用するソフトウェア)の開発に充てる予定である。なお現時点で、健常対照群8例・未治療PD患者群9例のデータに基づく解析から、既報告に無い新知見が得られている。未治療PD患者群では、神経経済学的課題による報酬予測の刺激に伴う腹側線条体の活動性が有意に低下しており、一方、損失予測の刺激に伴う扁桃体の活動性も有意に障害されていることが明らかとなった。したがって、PD患者では報酬系と損失回避の両面で機能障害があることが判明した。本結果に関しては、学会発表(2013年9月 World Congress of Neurology)・論文投稿を予定している。今後は、PD患者群のデータをL-dopa治療の前後で比較検討し、ドパミン補充療法によって上記の病態がどう変化しているのかを明らかにしていくことを目指す。現在、L-dopa治療の前後でのf-MRIのデータを解析中である。
【対象】慶應義塾大学病院神経内科通院中もしくは入院中で,PD と診断された症例で,40 歳以上75 歳未満であり,本研究の趣旨を理解し文書による同意が得られた者を対象とする.また,健常対照例として,本研究への参加を志願した正常な認知機能を有する40 歳以上75 歳未満の健常成人男女を対象とする。【研究方法】 研究代表者、連携研究者は同意の得られた被験者に対し、問診/診察を行い,各種神経心理学的検査,臨床症状の再評価を行う.今後の研究の主な目的は、倫理判断課題によるf-MRI 検査による検討である。また、現時点でf-MRI検査は、当院放射線診断科MRI(GE 社製、1.5 Tesla)にて実施しているが、今後は3 TeslaのMRI(GE 社製)にて研究を推進していく予定である。空間分解能の高い画像から、より精度の高い解析が可能となる。【f-MRIのデータ解析と研究成果】PD患者群のデータをL-dopa治療の前後で比較検討し、ドパミン補充療法によって線条体・扁桃体の病態がどう変化しているのかを明らかにする。L-dopa治療の前後でのf-MRIのデータは現在、解析中である。このデータからの研究成果は、本研究からの2つ目の研究論文として発信する予定である。【倫理判断に関する課題の詳細】 平成25年度は、神経経済学的課題に加えて、倫理判断(Moral judgement)に関わる意思決定に関わる新規課題(最終通牒課題,信頼課題などを想定)を作成し、この手法を未治療PD 患者に適用することにより、PD の病態、および倫理判断の脳内メカニズムを解明することを目指す。PDにおける公共性(協力性)や処罰といった攻撃性を評価することで,PDに特徴的な行動特性の基盤となる意思決定のあり方を解明していく予定である。
本研究では、医学的視点と工学的視点を融合させた心理実験装置,機能的画像撮像時における提示画像,ならびに背景となる神経心理学的検査(神経経済学的課題,倫理判断課題を含む)が必要である。またこれらの神経心理学的データと脳機能画像の解析ソフトウェアが必須であり、主たる研究費は、新規の神経経済学的課題・倫理判断課題などの神経心理学的検査(f-MRI検査に使用するソフトウェア)の開発に使用する予定である。また,脳機能画像の解析、計算機シミュレーションのために特殊なコンピューターのセットアップが必要である。さらに長時間に及ぶf-MRIのデータ解析(神経経済学的課題と倫理判断課題)と並行して、各種神経心理学的な課題も施行しており、その解析業務からの人件費が発生する。これらの作業過程に伴う人件費を含め、上記に関する経費が必須であり、それぞれの経費の概算は妥当であると考える。未使用額については、前述の通り、平成23~24年度中に予定していた検査に対して該当する患者数が少なかった為、発生した。未使用額は、平成25年度も継続して実施する検査の費用、検査ならびにf-MRIのデータ解析に関わる人件費、謝金、ならびに新規の神経経済学的課題・倫理判断課題などの神経心理学的検査(f-MRI検査に使用するソフトウェア)の開発に充てる予定である。
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