【要旨】本研究は、パーキンソン病(PD)患者の意思決定の神経心理学的基盤を神経経済学的手法(Neuroeconomics)にて解明することを目指す。【背景】PDではドパミン補充療法下での行動異常(衝動制御障害など)が注目されているが、これはドパミン補充療法によって修飾・出現している病態と考えられる。研究代表者は、発症早期の未治療PD患者で、損失回避傾向や低攻撃性など、PDに特異的な意思決定や情動の変化が出現している可能性を仮説とした。【目的】未治療PDの神経心理学的な意思決定や情動の変化を、神経経済学的課題を用いたfunctional-MRI(f-MRI;1.5 Tesla)にて検討し、PDに特異な病態とそのメカニズムの解明を目指す。【対象】PD患者8例・年齢をマッチさせた健常者9例【方法】神経経済学的課題(新規の金銭報酬予測パラダイム)を用いたf-MRIにて、刺激提示から回答までの一連の脳活動を統計画像解析により分析した。【結果】PD患者8名(平均年齢:60.3±5.9歳、平均罹病期間:1.3±0.9年)の神経心理学的諸検査の結果は、健常者9名と比較し有意差を認めなかった。PD患者では健常者に比べて、神経経済学的課題の報酬予測の刺激では腹側線条体の有意な活動低下、また損失予測の刺激では扁桃体の有意な活動低下が認められた。【結論】PDでは未治療の発症早期すでに、報酬期待に関与する中脳腹側被蓋野から腹側線条体のドパミン神経系、ならびに損失予測に関わる扁桃体の両者の活動性が共に低下していることが確認された。【現在の進行状況】PD患者群では、L-dopa 治療開始後に同様の検査を再施行した(治療後の検査はすでに完了)。ドパミン補充療法前後の脳活動状態を比較し、治療の効果とそれによる脳活動の変化を解明すべく、現在は治療後のデータを解析し、治療前後のデータ比較検討中である。
|