本研究課題では、シナプス前末端のミトコンドリアの形態が、どのような機能と関連するのかに着目して研究を進めた。シナプス前末端のミトコンドリアの代謝活性がカルシウムによって調節されていることを示す論文が報告されている。一方、ミトコンドリアの代謝活性はカルシウム以外にもcAMPによって調節されることがよく知られている。シナプス前末端のミトコンドリアは、神経の活動に依存して自身のATP合成活性を調節していると考える方が自然に思えるが、そのことを直接示す証拠は少ない。FCS(蛍光相関分光法)を用いた解析によって、シナプス前末端のミトコンドリアはNocodazoleに感受性を示すことから、微小管に結合した状態で局在していると考えられる(アクチン線維には依存しない)。一方、シナプス前末端のミトコンドリアは神経活動にともなって流入したカルシウムを取り込むことで、ミトコンドリア内のカルシウム濃度を上昇させることが報告されている。このシナプス前末端ミトコンドリアのカルシウム濃度上昇が、微小管との結合状態に依存するのではないかと考えている。また、ミトコンドリアの代謝活性を十分に上昇させるためには、ミトコンドリア内cAMPの上昇に伴って電子伝達系が活性化される必要があると考えられるが、これまでミトコンドリア内cAMPの動態を解析した報告はない。そこで、新規cAMP蛍光プローブを作製し、これにミトコンドリア局在化シグナルを付加することで、ミトコンドリア内のcAMP動態を解析できるようにした。これを用いることで、シナプス前末端ミトコンドリアが神経活動に伴ってcAMP濃度を上昇させるような系が存在するのか否かを確かめることが出来る。また、シナプス前末端ミトコンドリアのcAMP濃度上昇が、やはり微小管との結合に依存するのかどうかをテストすることが出来ると考えられる。
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