研究課題/領域番号 |
23500405
|
研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
鈴木 えみ子 国立遺伝学研究所, 構造遺伝学研究センター, 准教授 (20173891)
|
キーワード | シナプス / ショウジョウバエ / Toll / 神経-筋接合 / グルタミン酸受容体 |
研究概要 |
シナプスの形成や維持及び可塑的変化の過程で、様々な細胞膜タンパク質が重要な役割を担っている。我々はこの過程に関わる可能性の高い新規の細胞膜タンパク質の探索と機能解析を、モデル生物であるショウジョウバエの幼虫筋肉における神経-筋接合(NMJ)を用いて遂行している。ショウジョウバエ幼虫はふ化後蛹になるまでに50倍ほど成長し、NMJもこれに伴い、成長/増加する。この過程は筋肉の正常な活動を維持するために運動神経と筋肉との間での相互作用によって厳密に制御されていると考えられている。我々は、この相互作用の実行分子として分泌性あるいは細胞表面タンパク質が機能していると考え、これまでに、ショウジョウバエ遺伝子データベースより選択した分泌性及び細胞膜タンパク質をGal4/UASシステムを用いて筋肉で過剰発現し、シナプス形態異常の誘発を指標にスクリーニングを行なった。その結果、複数の候補遺伝子を同定することができた。本研究ではこれらの候補タンパク質のうち、特にTollファミリーに注目して研究を進めた。これまでの解析から、ショウジョウバエに9個あるtollファミリー遺伝子のうちtoll-7がNMJの発達を抑制性に制御する事を示唆する結果を得た。しかし、他のTollファミリー遺伝子やリガンドと考えられているSpzファミリーのRNAiによるノックダウン実験を行なったところ、有意な表現型が認められなかった。そこで、これらの遺伝子を複数同時にノックダウンする実験をおこなったが、現在までのところ、表現型が認められていない。本年度はこれらの実験に加え、グルタミン酸受容体の発現制御にも着目し、筋肉におけるMAPKシグナリングがグルタミン酸受容体の発現制御に関与している事を見いだした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.当初予定していたように、Toll-7以外のTollファミリー遺伝子について、RNAiによるノックダウン実験を単独遺伝子及び複数遺伝子で試みたが、これまでのところ表現型が認められたものはなかった。また今年度中に予定していた実験の全てを行なうことができなかった。一方、ノックダウン実験では完全に機能を欠失していないため、表現型が認められなかった可能性も否定できないので、機能欠失突然変異を作成して表現型を解析する予定であったが、突然変異体の作成が終了しなかった。 2.Toll-7の機能欠失突然変異の表現型を詳細に解析したところ、後シナプスにおけるグルタミン酸受容体の発現量が増加する、という結果を得たため、その機構を解析する為の基礎実験を行なった。その結果、筋肉のMAPKシグナル経路がグルタミン酸受容体サブユニットGluRIIA及びGluRIIB,の転写制御に関与している事を示唆する結果を得た。しかし、このシグナル経路がTollの細胞内下流シグナリングとどう関連しているかについては、今後の課題として残った。
|
今後の研究の推進方策 |
来年度は本研究期間の最終年度となる為、これまでの結果に基づいた以下の追加実験により、論文作成準備を行なう。 1.引き続き、Toll ファミリー遺伝子の機能欠失突然変異体の作成を行ない、表現型解析を進める。 2. Toll-7によるグルタミン酸受容体のNMJにおける発現制御機構について、さらに遺伝学的解析を行ない、Toll-7の細胞内下流シグナル経路とその他の細胞内シグナル経路との関係性を解析する。特にこれまでにグルタミン酸受容体の発現制御への関与を見いだした、MAPKシグナル経路との関係性に注目する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度に多重突然変異体の作成と解析を行ない、その成果を発表する予定であったが、解析に用いる突然変異体の作成が終了しなかったため次年度使用額が生じた。 1.突然変異体の作成・維持のため、実験動物飼育用品及び材料の購入に約30%を使用する。2.表現型解析の為の免疫染色試薬の購入に約30%を使用する。3.新たに使用する系統の購入に約20%を使用する。4.研究成果の発表と情報収集の為の学会発表旅費及び論文投稿料に約20%を使用する。
|