研究課題/領域番号 |
23500409
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研究機関 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
鈴木 航 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 微細構造研究部, 室長 (80332336)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 上側頭溝 / リーチング・グラスピング / 生体内神経結合イメージング |
研究概要 |
本研究では電気生理学的手法である微小電気刺激法、微小電極を用いたシングルユニット記録、マルチユニット記録とLFP記録を用い、麻酔下、行動下のマーモセットの前頭葉でミラーニューロン様の反応が観察できるかどうかを調べる。もし、ミラーニューロンの存在が示唆されたら、その領域に蛍光トレーサー・コレラトキシンを注入し、生体内神経結合イメージングにより頭頂葉から前頭葉への結合パターンを調べる。さらに前頭葉のミラーニューロン領域へ投射する頭頂葉領域から電気生理学的手法を用いて反応特性を調べることにより、頭頂葉にもミラーニューロンが存在するかどうかを検討する。薬理学的に頭頂葉の投射領域を抑制することによりその前頭葉への影響を調べることにより、ミラーニューロンの形成メカニズムについて検討する。 当該年度は麻酔下での微小電位計測法を用いて、マーモセット上側頭溝でマルチユニット記録とLFP記録を行い、他個体の行為、特にマーモセットが餌にリーチング・グラスピングを提示する際に強く反応する細胞を発見した。さらに、この細胞が集まっている領域に蛍光トレーサーを注入し、生体内神経結合イメージング法により頭頂葉と前頭葉に結合領域が存在することを確認した。これにより、マーモセットの頭頂葉と前頭葉にリーチング・グラスピングに対するミラーニューロンが存在する可能性を示すことができた。また生体内神経結合イメージング法によって示された結合領域の機能結合様式を調べるために、側頭葉に生体内神経結合イメージング法を適用し、結合領域に微小電気刺激と微小電位記録を同時に行い、機能結合を確認した。さらにこれらのデータにコヒーレンス解析とグランジャー因果性解析を適用し、定量的に評価できる系を完成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は麻酔下のマーモセット前頭葉運動関連領野で微小電気刺激を広い領域で行い、体部位の動きの表現についての機能マップを前頭葉の皮質上で作製する予定であった。しかし、マーモセットには中心溝が視認できず、明確なランドマークがないため、体部位表現マップを作成することが困難であった。当該年度途中から、マーモセットの上側頭溝を確なランドマークとして用いることができることが分かったため、上側頭溝から微小電位記録法を用いて他者の動きに反応する細胞を探すことから始めた。これは、過去のマカクサルを用いた研究から上側頭溝には他者の動きに反応する細胞があり、頭頂葉と前頭葉のミラーニューロンの入力がこの細胞のある部位だということが言われているからである。実際に麻酔下で微小電位記録を上側頭溝の腹側・尾部で行うと他者の動きに強く反応する細胞を発見した。また、蛍光トレーサーをこの細胞のある領域に注入し、生体内神経結合イメージングを行うと、頭頂葉と前頭葉に結合領域が認められた。すなわち、他者の動きに反応する上側頭溝の細胞の情報がこれら頭頂葉・前頭葉に出力されていることになり、これらの領域にはミラーニューロンが存在する可能性があることを示している。これら結合領域には機能結合があることを微小電気刺激法と微小電位記録法により確認している。よってミラーニューロンが存在するかどうかを調べる基礎的データは当該年度の実験によって得られたと考えている。 さらに、覚醒下微小電位記録用の電極の埋め込みテスト、覚醒下用電気生理学的実験システムの作成をするなど覚醒下でミラーニューロンがあるかどうかをテストするシステムのセットアップを準備した。
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今後の研究の推進方策 |
ミラーニューロンは自分が特定の行為をするときにも、それと同じ行為を他者がするのを見たときにも同じように反応する細胞であることから、ミラーニューロンが存在するかどうかの検証実験には覚醒下マーモセットで行うべきである。そこで、上側頭溝において他者の動きに強く反応する領域を麻酔下の電気生理学実験を行うことで探し、その領域に蛍光トレーサーを注入し、生体内神経結合イメージング法で頭頂葉・前頭葉に結合領域を同定する。次に上側頭溝の注入部位と頭頂葉・前頭葉のそれぞれの結合部位に慢性電極を埋め込む。埋め込み後、マーモセットをモンキーチェアに乗せ、他者がリーチングやグラスピングしている動画刺激等を見せたり、餌を食べさせたりしている状況で、埋め込み電極からマルチユニット記録あるいはLFP記録を行う。記録終了後は電極のマーキングを行い、皮質層構造と細胞活動との関係を調べる。 これらの実験を行うために、当該年度で行った実験に加え、マーモセットをモンキーチェアに乗せ、電気生理記録されている状況に慣れさせる訓練、視覚刺激を見る訓練、餌を取らせる訓練、また可能ならなんらかの視覚認知課題訓練などが必要である。また上側頭溝・頭頂葉・前頭葉から同時記録を行うため、コヒーレンス解析やグランジャー因果性解析など数理解析を行うことにより、3者の入出力関係を明らかにし、ミラーニューロンの発現するメカニズムを明らかにする第一歩とする。 これらの実験を複数個体について行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品として、麻酔下、覚醒下で行う実験に用いるマーモセットを2匹計上する。シングルユニット記録、マルチユニット記録、LFP記録、電気刺激のためのマルチ電極であるミシガンプローブを麻酔下用a2x16を2本、覚醒下用c1x16を3本計上する。電気記録用チェンバー、データ記録用メディア、麻酔薬や消毒薬、抗生物質などの試薬も計上する。また、研究代表者が国内学会(日本神経科学大会)および国際会議(北米神経科学大会)に参加して、本研究に関わる最新の研究動向を調査し、さらに本研究の成果を発表する予定であるので、旅費を申請する。
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