研究課題/領域番号 |
23500409
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研究機関 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
鈴木 航 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所微細構造研究部, 室長 (80332336)
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キーワード | 前運動野 / リーチング・グラスピング / 生体内神経結合イメージン グ |
研究概要 |
本研究では社会行動に関わる神経疾患のモデル動物としてマーモセットを用いることができるかどうかを検討するために、他者の行為の理解に重要な役割を果たすとされているミラーニューロンシステムがマーモセットで存在するかどうかを調べる。実験手法として電気生理、生体内神経結合イメージングを用い、ヒトやマカクサルで見つかったミラーニューロンのような反応特性を持つ細胞が存在するか、もし存在するとしたらどのような神経結合を持っているのかを明らかにする。 まずマーモセット大脳皮質における麻酔下での電気生理学的実験を行い、特に社会行動に関する情報を処理すると言われている上側頭溝とその周囲の皮質領域の機能と構造を調べた。その結果、上側頭溝尾側の細胞が他者の行為、特に他者の摂餌行動を視覚刺激として用いた時に強く反応することを明らかにした。そこで、その領域に逆行性の蛍光トレーサーCTB-Alexa555を注入し、蛍光実体顕微鏡で明るく見える領域を前頭葉で同定することによって解剖学的に強く結合する領域をin vivoで確認した(生体内神経結合イメージング法)。他者行動に強く反応する上側頭溝領域とその領域と解剖学的に強く結合している前頭葉領域に32チャンネルの2次元電極アレイをそれぞれ埋め込んで、細胞外電位の同時記録を行った。その結果、実験者がエサを掴む運動を見る時と動物自身がエサを掴む時に強く反応する細胞が前頭葉に見つかった。すなわちこれはマーモセットの前頭葉にもヒトやマカクサルと同様にミラーニューロンがあることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度までに、マーモセット大脳皮質における麻酔下での電気生理学的手法と生体内神経結合イメージング法を組み合わせる実験を立ち上げ、特に社会行動に関する情報を処理するといわれている上側頭溝とその周囲の皮質領域の機能と構造を調べた。視覚、聴覚、そして視聴覚連合のそれぞれのモダリティーで社会行動に関係する刺激を用いて電気生理学的な実験を行い、マーモセットの上側頭溝でも、ヒトやマカクサルと同様、社会行動に関係する情報処理が行われていることを明らかにした。さらに、昨年度は麻酔電気整理実験・生体内神経結合イメージング法に覚醒下での電気生理学的実験、行動学的実験を組み合わせた実験系を立ちあげに成功し、マーモセットがエサを掴む動作をしている時や、実験者がエサをとっているのを見ている時に起こる細胞活動を上側頭溝皮質と前頭葉から同時に記録することに成功した。これにより、マーモセットの前頭葉にもヒトやマカクサルと同様にミラーニューロンが存在することを示した。さらに、これらミラーニューロンを含む上側頭溝-前頭葉ネットワークにある細胞はエサの有無などの文脈に依存して反応を変化させることを明らかにした。 これらの結果により、本研究の目的であるマーモセットにおけるミラーニューロンの存在を示すことができ、さらにその神経結合や反応特性を明らかにすることができた。。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度まででマーモセットにもミラーニューロンが存在することを示すことができたので、さらに例数を増やし、論文に発表する。また、頭頂葉においても同様の手法を用いてミラーニューロンが存在するがどうかを調べる。さらにミラーニューロンが存在する領域をムシモルなどで薬理的に抑制し、動物の行動の変化を調べることにより、ミラーニューロンの社会行動に対する役割を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品として、麻酔下、覚醒下で行う実験に用いるマーモセット1匹とデータ記録用メディアを計上する。また、研究代表者が国内学会(日本神経科学大会)および国際会議(北米神経科学大会)に参加して、本研究に関わる最新の研究動向を調査し、さらに本研究の成果を発表する予定であるので、旅費を申請する。
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