本研究では社会行動に関わる神経疾患のモデル動物としてマーモセットを用いることができるかどうかを検討するために、他者の行為の理解に重要な役割を果たすとされているミラーニューロンシステムがマーモセットで存在するかどうかを調べた。実験手法として電気生理、生体内神経結合イメージングを用い、ヒトやマカクサルで見つかったミラーニューロンのような反応特性を持つ細胞が存在するかどうかを検討した。まず麻酔下での電気生理学的実験により、社会行動に関する情報を処理すると言われている上側頭溝とその周囲の皮質領域の機能と構造を調べた。その結果、上側頭溝尾側の細胞が他者の行為、特に他者の摂餌行動を視覚刺激として用いた時に強く反応することをわかった。そこで、その領域に逆行性の蛍光トレーサーCTB-Alexa555を注入し、蛍光実体顕微鏡で明るく見える領域を前頭葉で同定することによって解剖学的に強く結合する領域をin vivoで確認した(生体内神経結合イメージング法)。他者行動に強く反応する上側頭溝領域とその領域と解剖学的に強く結合している前頭葉領域に32チャンネルの2次元電極アレイをそれぞれ埋め込んで、細胞外電位の同時記録を行った。その結果、実験者がエサを掴む運動を見る時と動物自身がエサを掴む時に強く反応する細胞が前頭葉に見つかった。すなわちマーモセットにもミラーニューロンが存在することが明らかになった。さらに、これらの細胞の反応は他者行動の文脈に依存して変化することにより、他者行動の目的を表現している可能性があることが分かった。最後に、前頭葉の電極刺入部位が運動前野にあること、上側頭溝と運動前野に結合していることを組織学的に確認した。
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