研究課題/領域番号 |
23500414
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
船越 健悟 横浜市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60291572)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 脊髄損傷 / 再生医学 / 比較解剖学 |
研究概要 |
「キンギョ脊髄切断モデルにおける軸索再生および瘢痕部の組織学的解析」に関して、脊髄切断後キンギョでは、損傷部に線維性組織からなる瘢痕が形成されるが、やがて吻尾方向から瘢痕内部に細管が侵入してきて、瘢痕を貫通するトンネルが作られ、再生軸索はこのトンネル細管を通過してゆくことが明らかになった。この細管はZ0-1抗体に免疫陽性を示し、またラミニン陽性を示す基底膜に裏打ちをされていることから、上皮様細胞からなっていると推測された。一方、細管はtomato lectin の組織染色によっては明瞭に標識されず、また、tomato lectin を血管内投与した場合も染色されなかったことなどから、血管とは異なる組織であることも明らかになった。 「両棲類脊髄切断モデルにおける軸索再生および瘢痕部の組織学的解析」に関しては、これまで有尾両棲類では切断部を越えて軸索が再生するが、無尾両棲類では再生しないとされていた。しかし、今回アフリカツメガエルで確かめたところ、無尾両棲類でも、損傷部を越えて軸索が再生することが確かめられた。再生軸索は中心管周囲を通過しており、瘢痕部を貫通するような線維は認められなかった。瘢痕部の組織を調べたところ、瘢痕部には細管が侵入してくるものの、吻尾軸と直交する方向のものが多く、侵入する再生軸索はあるももの、瘢痕部を通過できない様子が確認された。 「ラット脊髄切断モデルにおける軸索再生および瘢痕部の組織学的解析」に関しては、下位胸髄を完全切断したモデルを用いたところ、コントロール群では瘢痕部を越える軸索再生は認められなかったが、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を浸透圧ポンプを用いて局所投与した群では瘢痕部を越える軸索再生が確認された。ラットでも瘢痕部に多数の細管の侵入が認められ、少数の再生軸索が吻尾軸方向の細管を通過していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「キンギョ脊髄圧迫モデルにおける軸索再生および瘢痕部の組織学的解析」「ラット脊髄挫滅モデルにおける軸索再生および瘢痕部の組織学的解析」については、予定していた実験装置の準備が間に合わず、23年度は延期された。 しかし、その他の課題の進捗状況は現時点で、おおむね予定通りか予想を超えた成果が得られたものと考えている。特に「両棲類脊髄切断モデルにおける軸索再生および瘢痕部の組織学的解析」に関して、アフリカツメガエルを用いて、無尾両棲類でも瘢痕部を越える再生軸索があることを初めて証明することができたことは、大きな成果と考えている。また、無尾両棲類における再生軸索の伸長過程が有尾両棲類と似ている一方、キンギョとは大きく異なっていることを示したことも、研究課題の全体像を見渡す上で大きな成果となったと評価している。「ラット脊髄切断モデルにおける軸索再生および瘢痕部の組織学的解析」に関しては、下位胸髄の完全切断モデルのSSRI投与例で、瘢痕部を越える軸索再生が確認されたものの、結果の再現性が悪いことが問題となった。モデル作成方法や、再生軸索の評価方法を再検討してゆく必要がある。 また、24年度から開始する予定だった、「瘢痕部の軸索再生現象の微細形態学的解析」は、繰り上げて23年度の途中から開始した。
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今後の研究の推進方策 |
24年度は、「キンギョ脊髄切断モデルにおける軸索再生および瘢痕部の組織学的解析」、「両棲類脊髄切断モデルにおける軸索再生および瘢痕部の組織学的解析」、「ラット脊髄切断モデルにおける軸索再生および瘢痕部の組織学的解析」、「瘢痕部の軸索再生現象の微細形態学的解析」を中心に実験を計画している。特に、キンギョ、アフリカツメガエル、ラットに共通して瘢痕部に認められる細管について、その由来、微細形態などを調べてゆく予定である。また、瘢痕組織が変化してゆく過程についても、三者の違いに焦点をあてて調べてゆく予定である。 また、余裕が生じてきた段階で、「キンギョ脊髄圧迫モデルにおける軸索再生および瘢痕部の組織学的解析」、「ラット脊髄挫滅モデルにおける軸索再生および瘢痕部の組織学的解析」にも着手したい。 「ラット脊髄切断モデルにおける軸索再生および瘢痕部の組織学的解析」については、皮質脊髄路の評価にトレーサーだけでなく、皮質脊髄路を特異的に認識する PKCγ抗体を用いた免疫組織化学を試みる予定である。また、瘢痕部を通過する再生軸索の定量的評価にのために、頚髄レベルでの切断モデルの導入も検討している。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の予定通り、免疫組織化学に用いる抗体や試薬、電子顕微鏡資料作成に必要な試薬など、消耗品費(物品費)に、直接経費の大部分を振り分ける予定である。
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