研究課題/領域番号 |
23500415
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
時田 美和子 (馬杉 美和子) 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10420712)
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研究分担者 |
坂本 浩隆 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (20363971)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | mGluR7 / aggression / social behavior / sexual behavior / GRP / 嗅覚 |
研究概要 |
申請者らは、これまでの研究から代謝型グルタミン酸受容体サブタイプ7遺伝子欠損マウス(mGluR7 KO)において、性行動、攻撃行動などの社会的行動、および恐怖反応の異常があることを見いだしている。本研究はこれらの行動の異常をおこすメカニズムを多角的に解析することにより、社会的行動に必要な神経回路、シナプスの調節機構の理解を深めることを目的とする。初年度は、嗅覚などの感覚系の異常の有無(1, 2に対応)、射精の機能などGRP系との関係(3, 4に対応)の解析を行った。「1. 嗅覚系の解析~においの好みを中心に」 嗅覚はマウスなどの齧歯類では最も主要な感覚であり、攻撃行動、性行動の発現に必須である。雄の尿と生理食塩水を提示して、好みを確認する実験を行ったところ、mGluR7 KOは雄の尿に興味を示さないことを見いだした。「2. 嗅覚刺激によるc-fosの発現」 嗅覚系では、生得的に異性や敵に対して反応する経路が決まっており、異性や敵のにおいを提示すると、それぞれに特定の脳の領域でc-fosなど最初期遺伝子が発現する。尿のにおいを嗅がせた後のc-fosの発現を解析したところ、mGluR7 KOでは分界条床核におけるc-fosの発現が低下していた。「3. mGluR7 KOマウスの性行動の解析~特に勃起および射精について」 mGluR7 KOマウスでは射精に至ることのできる個体の割合が著しく減少している。そこで、勃起の機能にも違いがあるか確認するために反射性勃起を解析したが、mGluR7とwildで有意差は確認できなかった。「4. mGluR7 KOマウスにおけるGRP 系の解析」 申請者らが雄性性機能を調節していることを同定した脊髄GRP系についてmGluR7 KOを用いて解析した。mGluR7 KOではGRPの発現が減少していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書の研究計画には、23年度に実施する項目として上記以外に「5. ホルモン濃度の測定」も挙げていたが、ここまで進まなかった理由として、研究実績の概要で記載した事項にポジティブデータが多く見られた点が挙げられる。「1. 嗅覚系の解析」において、当初の期待通りにmGluR7 KOの嗅覚の好みがwildのそれとは異なることが見いだされた。さらに、「2. 嗅覚刺激によるc-fosの発現」は嗅覚に異常が認められた場合にのみ行う予定であった実験であり、この実験によって、分界条床核におけるc-fosの発現の低下が観察されたことは、mGluR7が嗅覚の情報処理にかかわり、さらには個体認識に重要な役割をはたしていることを示す、大きな成果である。「4. mGluR7 KOマウスにおけるGRP 系の解析」についても、GRP系との関係を示唆することができた。
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今後の研究の推進方策 |
c-fosの発現の変化により、脳のどの部位のmGluR7が、攻撃行動に重要であるか、ある程度絞ることができたが、まだ不十分な点があるため、脳の他の部位についてもc-fosの発現の解析を続ける予定である。c-fosの解析により、攻撃行動に必要なmGluR7の作用部位をさらに絞り込み、その部位での回路について検討する。具体的には分界条床核や内側扁桃体など、またそれらの部位へ入力する領域のmGluR7の発現様式を詳細に観察し、攻撃行動の調節に脳のどの部位のmGluR7が働いているのかを確認する。最終的には、局所的なアンタゴニストMMPIPの投与、あるいはsi-RNAによるノックダウンにより領域を確定したい。 射精の異常については、反射性勃起では差が出なかったため他の解析方法をとる必要がある。腰髄に存在するmGluR7が局所的に働いているのか、脳に存在するmGluR7の支配によるものなのかを確かめるために、腰髄に局所的にアンタゴニストMMPIPあるいはsi-RNAを投与し、射精の有無を解析する。薬剤による射精の誘発を試みるが、うまくいかない場合は、性行動の観察に切り替える予定である。腰髄レベルのmGluR7が重要であるという結果が出た場合は、すでに関与する可能性を示したGRP系との関係を中心に、免疫電顕を含めた免疫組織化学法により、腰髄におけるmGluR7の発現様式と回路を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度は行動解析および免疫組織化学的解析といった比較的少額の研究費でまかなえる実験を主に行った。行動解析は、大学の施設で維持している遺伝子改変動物を用いたものであり、免疫組織化学はすでに研究室で多くの者が行っているため、共通の試薬や器具などを利用することができた。このため研究費の使用金額は予定よりも少なくなっている。 24年度については、アンタゴニストやノックダウンの手法を用いた行動薬理学的解析を計画しているため、各種薬剤の購入、動物の購入など消耗品に研究費を使用する。また、本研究で得られた知見は、相手の認識などの社会的行動、および射精などの男性性機能のメカニズムにせまる重要な結果であり、学会発表などの旅費にも使用する予定である。
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