研究課題/領域番号 |
23500415
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
時田 美和子(馬杉美和子) 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10420712)
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研究分担者 |
坂本 浩隆 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (20363971)
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キーワード | mGluR7 / aggression / social behavior / sexual behavior / GRP / 嗅覚 / c-fos / BNST |
研究概要 |
申請者らは、これまでの研究から代謝型グルタミン酸受容体サブタイプ7遺伝子欠損マウス(mGluR7 KO)において、性行動、攻撃行動 などの社会的行動、および恐怖反応の異常があることを見いだしている。本研究はこれらの行動の異常をおこすメカニズムを多角的に解析することにより、社会的行動に必要な神経回路、シナプスの調節機構の理解を深めることを目的とする。H24年度は、嗅覚などの感覚系の異常の有無(2に対応)、行動薬理学的解析(6に対応)の解析を行った。 嗅覚はマウスなどの齧歯類では最も主要な感覚であり、攻撃行動、性行動の発現に必須である。H23年度には「1. 嗅覚系の解析~においの好みを中心に」より、雄の尿と生理食塩水を提示して、好みを確認する実験を行ったところ、mGluR7 KOは雄の尿に興味を示さないことを見いだした。 H23年の結果を受けて「2. 嗅覚刺激によるc-fosの発現」を行った。 嗅覚系では、生得的に異性や敵に対して反応する経路が決まっており、異性や敵のにおいを提示すると、それぞれに特定の脳の領域でc-fosなどの、最初期遺伝子が発現する。尿のにおいを嗅がせた後のc-fosの発現を解析したところ、 mGluR7 KOでは分界条床核におけるc-fosの発現が低下していた一方で、副嗅球におけるc-fosの発現に変化はなかった。 「6. 行動薬理学的解析」嗅覚刺激後のc-fosの発現の解析の結果、mGluR7 KOでは分界条床核に至る情報伝達が障害されていることが示唆された。そこで行動異常の責任部位を特定するため、mGluR7特異的アンタゴニストMMPIPを分界条床核を含めた副嗅覚系の情報伝達経路に投与し、攻撃行動を解析した。その結果、分界条床核にMMPIPを投与したマウスでは攻撃行動が低下していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書の研究計画には、H23年度およびH24年度に実施する項目として上記以外にもいくつかの項目を挙げていたが、すべてを行えなかった理由として、研究実績の概要で記載した事項にポジティブデータが多く見られた点が挙げられる。「1. 嗅覚系の解析」において、 当初の期待通りにmGluR7 KOの嗅覚の好みがwildのそれとは異なることが見いだされた。さらに、「2. 嗅覚刺激によるc-fosの発現」は嗅覚に異常が認められた場合にのみ行う予定であった実験であり、この実験によって、分界条床核におけるc-fosの発現の低下が観察されたことは、mGluR7が嗅覚の情報処理にかかわり、さらには個体認識に重要な役割をはたしていることを示す、大きな成果である。 H24年度にはこれらの結果をうけて、1および2の確認実験および、アンタゴニスト投与の実験を重点的に行った。マウスの脳局所へのアンタゴニスト投与は、技術的にも難しいものであるが、特に分界条床核は小さな領域であり、さらに難度が高くなる。脳局所へのアンタゴニスト投与実験に時間がかかったのは想定範囲内と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
アンタゴニストMMPIPの分界条床核への投与により、分界条床核に存在するmGluR7が攻撃行動に重要であることが示唆された。今後、コントロール実験によりこの結果をより確実なものである確認をすると共に、免疫電顕を含めた免疫組織化学法により、mGluR7の発現様式と回路を解析する。mGluR7は一つの神経細胞から複数種の神経細胞にシナプスする場合、ある特定の神経細胞にシナプスする軸索終末のみに発現する、あるいはグルタミン酸作動性シナプスだけではなく、GABA作動性シナプスの軸索終末に発現するなど、非常に特異的な発現形式を持つことで知られている。しかしながら、その発現形式の生体内での意義はまだ明らかにされていない。分界条床核において、神経回路内でのmGluR7の役割が明らかにできれば、これまで知られていなかった神経の調節機構を解明できるかもしれない。 射精の異常については、H23年度に行った反射性勃起では差が出なかったため、他の解析方法をとる必要がある。腰髄に存在するmGluR7が局所的に働いているのか、脳に存在するmGluR7の支配によるものなのかを確かめるために、腰髄に局所的にアンタゴニストMMPIPを投与し、射精の有無を解析する。薬剤による射精の誘発を試みるが、うまくいかない場合は、性行動の観察に切り替える予定である。 腰髄レベルのmGluR7が重要であるという結果が出た場合は、すでに関与する可能性を示したGRP系との関係を中心に、免疫電顕を含めた免疫組織化学法により、腰髄におけるmGluR7の発現様式と回路を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度は主に行動解析を行った。行動解析は、大学の施設で維持している遺伝子改変動物を用いたものであり、研究費の使用金額は予定よりも少なくなっている。 H25年度については、射精の誘発を行うが、これにはラットとマウスで感受性が異なることがすでに知られているため、ラットを用いた射精実験を新しく立ち上げる。各種薬剤の購入、動物の購入など消耗品に研究費を使用する。本研究で得られた知見は、相手の認識などの社会的行動、および射精などの男性性機能の メカニズムにせまる重要な結果であり、学会発表などの旅費にも使用する予定である。
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