大脳基底核のひとつである視床下核は現在パーキンソン病の外科治療として日本を含め世界中でもっとも広く行われている脳深部刺激療法のターゲット部位である。しかしこの領域を電気刺激することで症状が軽減する理由については未だ不明の点が多く、又情動などに重要な影響を与える可能性も明らかになってきている。本研究では、視床下核のグリア細胞による神経活動の制御機構を明らかにし、グリア細胞を標的とした新しい見地からパーキンソン病の新たな治療法の開発に迫ることを目的とした。 まず、グリア前駆細胞(Olig2細胞)をターゲットとしたトランスジェニックマウス(Olig2-CreER:ROSA-GAP43-EGFP)を用いて、ドーパミン神経毒である6-ハイドロキシドーパミン(6-OHDA)を黒質へ微量注入する方法により片側パーキンソン病モデルマウスを作成した。このマウスでは損傷側の視床下核においてGFPの発現が有為に増加しており、このGFP陽性細胞はアストロサイトであることが電子顕微鏡学的検討により明らかになった。またこのOlig2由来アストロサイト(Olig2-As)は淡蒼球においても特異的に発現するが線条体には発現しない。興味深いことにこのOlig2-Asは一般的なアストロサイトマーカーであるGFAPをほとんど発現しない。これら事からこのOlig2-Asは抑制性入力をうける大脳基底核の神経活動に重要な機能を果たすアストロサイトのサブタイプではないかと予想した。次にこのアストロサイトの機能を解析するために、アストロサイトが増加した視床下核にアストロサイト毒であるfluorocitric acid(FC)を注入しその効果を行動評価により解析を試みた。しかし残念ながら運動機能や行動に変化は見られなかった。しかしOlig2-Asが大脳基底核の部位特異的に存在し神経活動に関与している可能性を示唆できた。
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