研究課題/領域番号 |
23500417
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
原 晃一 慶應義塾大学, 医学部, 共同研究員 (60255479)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | marmoset / brain infarction / model / PET |
研究概要 |
マーモセット脳梗塞モデルの樹立後、従来のMRIによる梗塞巣評価に加え、PETによる梗塞巣の脳代謝評価を行うことで、移植に適した時期の決定や、霊長類でありながらヒトより早い回復のメカニズムを知ることが今後の治療にとって重要であると考えた。 PETは、小動物用のPETとサイクロトロン並びにホットラボを持つ施設である浜松ホトニクスにて行った。PETに用いた核種は、従来のFDGではなく、ミトコンドリアのComplex1での酸化的リン酸化を評価するBMS、中枢性および末梢性ベンゾジアゼピン受容体のリガンドであるRo15-1788およびPK-11195の3核種を用いて脳梗塞を評価した。全身麻酔を必要とする小動物実験では、入眠時には糖代謝が落ちるためFDGでは正確な評価が困難だからである。結果は、BMSが一番鋭敏に脳梗塞を反映し、術前は基底核を中心に高く、1週間後に右MCA領域で低下、血流低下(脳浮腫)と壊死を表し、4週間後に低下した領域がやや縮小し、脳浮腫が改善し、低下部位が脳梗塞を示した。これまでのMRIでの結果とほぼ同様であり、MRIを用いない評価も可能と考えられた。Ro15-1788は、術前では大脳皮質中心に取り込み高値で、神経細胞を反映し、1週間後に右MCA領域で低下し、脳浮腫と神経細胞の壊死を反映し、4週間後に脳浮腫は改善し、大脳皮質での脳梗塞を反映していることが示された。焦点を皮質に絞る場合に有用なリガンドとなると考えられた。PK11195は、グリア細胞を反映するため、梗塞巣が生じた際の炎症のピークを調べるのに有用と考えたが、術後1週間後と4週間後の撮影では炎症を確認するに至らなかった。炎症のピークをコントロールすることが、適切な細胞移植には必須であり、撮影時期の決定が今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
[MCAOモデル作成] (財)実験動物中央研究所において行った。全身麻酔下に右頚部動脈を剖出し、外頸動脈から内頸動脈を経由し右MCAに塞栓糸を挿入、喫入させた。術中画像検査にてMCAに血流が無いことを確認し、3時間閉塞させた。術後経時的に頭部MRI、行動学的解析を行った。また神経組織再生を評価するためにBrdUを腹腔内投与。術後6-8週後に灌流固定後脳を摘出、免疫染色を行い、梗塞巣とBrdU陽性細胞の動向について評価を行った。特に霊長類でも神経再生が行われる可能性について検討した。術後1週間目以降、行動学的に自然回復が見られるものの、術後6週間後にも見られる活動性の低下などの残存する症状も評価するため、行動学的解析方法も現行の評価方法に加え、客観的に評価が出来るようmodifyし、さらなる検討を加えた。これにより、『左手不使用の学習』という状態を発見した。さらに、回復の機序についてPETによる画像評価(後述)を行った。[MCAOモデルのPET評価](株)浜松ホトニクスPETセンターにて行った。PETに用いた核種は、従来のFDGではなく、ミトコンドリアのComplex1での酸化的リン酸化を評価するBMS、中枢性および末梢性ベンゾジアゼピン受容体のリガンドであるRo15-1788およびPK-11195の3核種を用いて脳梗塞の経時的な撮影を行った。現在データ解析、検討中であるが、現時点でBMSが一番鋭敏に脳梗塞を反映することが分かった。BMSの取り込みが術前は基底核を中心に高く、1週間後に右MCA領域で低下、血流低下(脳浮腫)と壊死を表し、4週間後に低下した領域がやや縮小し、脳浮腫が改善し、低下部位が脳梗塞を示した。これまでのMRIでの結果とほぼ同様であり、MRIを用いない評価も可能と考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
[PET評価の継続]昨年度の検討が不十分であった、Ro15-1788およびPK-11195または他の核種を用いて、今後の脳梗塞に対する細胞治療に適した時期を検討する。Ro15-1788は神経細胞を反映するが、これまの結果で1週間後に右MCA領域で、脳浮腫と神経細胞の壊死を反映し、4週間後に脳浮腫の改善と大脳皮質での脳梗塞を反映していることが示されたため、焦点を皮質に絞り梗塞巣の回復と機能回復の相関を調べる。PK11195はグリア細胞を反映し、梗塞巣が生じた際の炎症のピークを調べるのに有用だが、昨年度までは、術後1週間後と4週間後の撮影では炎症を確認するに至らなかった。炎症のピークをコントロールすることが、細胞移植には必須で、今後の撮影で適切な移植時期を決定する。 [MCAOモデルを用いた細胞療法の検討] 昨年度までに確立・解析を行った脳梗塞モデルに対し、細胞移植を行い、その安全性、治療効果について検討する。現在、共同研究者である慶應義塾大学生理学教室岡野研において研究が進められているマーモセットiPS細胞、ES細胞、もしくは胎仔の中枢神経由来の幹細胞を用いる。マーモセット脳梗塞モデル作成手術後の移植時期はPETの検討にて決定した適切な時期に施行。マーモセット頭部固定器を用い、全身麻酔下にて頭蓋骨に穿頭。ハミルトンシリンジを梗塞巣周辺(特に右大脳基底核近傍)に定位的に挿入し、移植細胞をゆっくり注入する。術後4-6週間、頭部MRIもしくはPET撮影を行い、行動学的解析を行った後に灌流固定。脳を摘出し、移植片の生着の有無、梗塞巣の変化、ホスト細胞との神経回路網再構築の可能性、腫瘍形成能を評価する。そのためにHE染色、ならびに抗NeuN、GFP(移植細胞にはあらかじめGFP遺伝子を導入)、 Synaptophysin抗体等を用いた免疫染色を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果であり、翌年度の消耗品購入に充てる予定である。特に実験動物の購入が十分であったため、主として来年度に充てる予定である。実験に使用しているマーモセットは、現在、共同研究者である慶應義塾大学生理学教室岡野研において供与して頂いているが、年間10数匹であり、手術の成功率やマーモセットの生存率を鑑みると、個体の今後の移植実験にて必要なマーモセットが全く足りてない。マーモセットの購入を最優先に行う。マーモセットの成体は1匹60万円と高価なため、幼若なものを安価(40万)に購入し、成体になるまで飼育することも検討する。また、引き続きPETを有する(株)浜松ホトニクスにて実験を行うが、浜松にある施設であり、実験者の出張費としても使用する。
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