研究課題/領域番号 |
23500417
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
原 晃一 慶應義塾大学, 医学部, 研究員 (60255479)
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キーワード | brain infarction model / common marmoset / cell therapy / PET / BMS747158-02 / BCPP-EF |
研究概要 |
マーモセット脳梗塞モデルの樹立後、従来のMRIによる梗塞巣評価に加え、PET(Positron Emission Tomography)による梗塞巣の脳代謝評価が、移植治療に適した時期の決定や、霊長類における脳梗塞の病態把握に極めて有用と考えた。 PETは、小動物用のPET、サイクロトロン並びにホットラボを持つ、浜松ホトニクスにて行った。PETに用いた核種は、従来のFDG(18F-fluorodeoxy glucose)ではなく、ミトコンドリアのComplex1での酸化的リン酸化を評価するBMS747158-02、中枢および末梢性ベンゾジアゼピン受容体のリガンドであるRo15-1788、PK-11195の3核種を用いて脳梗塞を評価した。全身麻酔を必要とする小動物実験では、入眠時に糖代謝が落ちるためFDGでは正確な評価が困難だからである。結果は、BMS747158-02が最も鋭敏に脳梗塞を反映し、術前は基底核を中心に集積が高く、術後1週間後に右中大脳動脈灌流領域で集積が低下し、血流低下(脳浮腫)あるいは壊死を表すと考えられた。4週間後には集積低下がみられた領域がやや縮小した。したがってこの回復が見られた領域は脳浮腫の改善を表し、一方集積が低下したままの部位が脳梗塞のコアを表すと考えられた。これまでのMRIでの結果とほぼ同様であった。Ro15-1788は大脳皮質での脳梗塞を反映していることが示され、PK11195は、炎症性アストログリアを反映することが示された。現在BMS747158-02と同化合物であり、より感受性の高いBCPP-EFを用い、さらに検討中である。PETの集積低下率と、MRIおよび組織像に相関があることが検出可能である。このように脳梗塞モデルの作成と評価方法がほぼ確立できたと考えている。さらに次段階である脳梗塞モデルに対する細胞療法を検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
[中大脳動脈(MCA)閉塞モデル作成および改良]これまでの方法を踏襲し作成した。術後経時的に頭部MRI、行動学的解析を施行。また神経組織再生を評価するためにBrdUを腹腔内投与。術後6ー8週後に灌流固定後脳を摘出し組織学的検討を行った。特に霊長類でも神経再生が起こる可能性について検討したが、げっ歯類とは異なり、神経幹細胞の新生は極めて限られることが判明した。行動学的解析方法では、現行の評価方法に加え、巧緻運動評価も追加した。すなわち前肢に左右を使い分けさせる器具を開発し検討した結果、麻痺が改善しても巧緻運動障害がのこる個体、もしくは全く患側を使用しようとしない『不使用の学習』という状態を発見した。これらの病態把握のため、PETによる画像評価(後述)を行った。 細胞療法研究に適した脳梗塞モデル作成という観点から、これまでのモデルでは6週間後の運動機能障害が軽度であるために、治療前後の効果の判定が比較的困難と考えられた。そのため、障害がより重度に残存するようなモデル作成ができないか検討した。その結果、術中の麻酔方法を変えることで、より重度の障害を後遺するモデル作成が可能となった。本方法では虚血時間の延長は必要ない。現在データを収集検討中である。 [MCA閉塞モデルのPET評価](株)浜松ホトニクスPETセンターにて行った。これまでマーモセットでの脳梗塞PET検査の報告がなく、使用する核種の選定から検討が必要であった。今回は3種の核種について検討を行った結果、BMS747158-02が最も鋭敏に脳梗塞を検出できることが分かった(「研究実績の概要」を参照のこと)。さらに感受性を増したBCPP-EFという核種を浜松ホトニクスが開発した。本核種を用いた検討の結果、梗塞巣における集積低下の程度と、MRI画像所見および組織像に相関があることが判明し、現在データをまとめている。
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今後の研究の推進方策 |
[MCAOモデルの改良] 我々が開発した脳梗塞モデルとその評価方法を用い、脳梗塞の治療法、特に細胞療法を検討する。治療効果の判定のため、より重症の脳梗塞の症状が残存する必要があると考え、引き続き、モデル作成時の麻酔管理の検討を行う。検出容易な後遺症が残存するモデルが作成可能となってきており、安定したモデル供給に努める。 [MCAOモデルを用いた細胞療法の検討] これまでに確立・改良を行った脳梗塞モデルに対し、細胞移植を行い、その安全性、治療効果について検討する。現在、共同研究者である慶應義塾大学生理学教室岡野研において研究が進められているヒトiPS細胞を用いる。同細胞から誘導した神経幹細胞の移植を検討中である。マーモセット脳梗塞モデル作成手術後の移植時期はMRI、PETの画像評価に評価によって決定する。マーモセット頭部固定器を用い、全身麻酔下にて頭蓋骨に穿頭。ハミルトンシリンジを梗塞巣周辺(特に右大脳基底核近傍)に定位的に挿入し、移植細胞をゆっくり注入する。術後4-6週間、頭部MRIもしくはPETを施行。さらに行動学的解析を行った後に灌流固定を行う。脳を摘出し、移植片の生着の有無、梗塞巣の変化、ホスト細胞との神経回路網再構築の可能性、腫瘍形成能を評価する。そのためにHE染色、ならびに抗NeuN、GFP(移植細胞にはあらかじめGFP遺伝子を導入)、 Synaptophysin抗体等を用いた免疫染色、電顕による検討を行う。腫瘍形成能を調べるために長期飼育も行う。また、ヒトiPS細胞を用いるため、マーモセットに対する免疫抑制剤の使用方法についても検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
これまで当初予定していたマーモセットの購入、搬送代金につき、その費用を共同研究施設などの別の資金から調達可能であったため、主としてマーモセット購入搬送代金分につき、今年度への繰越金が生じた。しかし今後は当科研費にてマーモセットを購入予定であり、繰越金も含めて下記の如く大部分はマーモセット購入代に必要となってくると考えられる。上記「今後の研究の推進方策」で述べた研究を進めていくうえで、霊長類脳梗塞モデルにおける、細胞療法の安全性、有効性の検討のため、相応の個体数の確保が重要となってくる。マーモセット1匹あたり、30-40万円の価格である。また実験動物中央研究所は川崎市内に、浜松ホトニクスは静岡県浜松市に存在するため、手術管理の可能な川崎の施設から、PET撮影可能な浜松の施設間でのマーモセットの移動搬送料金も必要となってくる。動物専用の移送業者の料金は1回当たり、6ー8万円となっている。マーモセットは少なくとも6匹使用予定である。マーモセットは成体ほど価格が高額となってしまうため、早めに幼若個体を購入し、成体になるまで飼育するなどとし、価格を30万円程度に抑える予定である。このように節約しても6匹購入すると180万となり、搬送も含めほとんどの金額が費やされる予定である。また本年度は本科研費の最終年であり、学会発表に加え、論文執筆、投稿なども行う。これらの諸経費も考慮する。
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