研究課題
平成23年度はリン酸化L1-CAMの検出・定量に主眼をおき、以下の研究を行った。1. 正常 rat DRGにおけるリン酸化L1-CAMの発現細胞種を同定。Naive ラットDRGにおいて定常的にSer 1181をリン酸化しているL1-CAMのニューロンをキャラクタライズした結果、多くがNF200(有髄神経のマーカー)との非共存を示し侵害受容系のニューロンであることが分かった。その他のマーカーとの共存も現在確認中である。2. DRGにおける末梢神経損傷後のリン酸化/脱リン酸化L1-CAMの経時的変化を定量をした結果、Ser 1181をリン酸化しているL1-CAM陽性ニューロンは損傷後1日から著明な減少が確認できた。これはtotal L1-CAMの局在の変化と対称的なパターンを示しており、損傷ニューロンでの膜移行はL1-CAMの脱リン酸化が引き金となっている可能性を示していると考えて次年度の研究項目へと展開している。3. 脊髄後角における末梢神経損傷時のリン酸化L1-CAMの経時的変化を定量した結果、損傷後7日から脊髄後角I-II層での増加が確認でき、少なくとも30日続く事が分かった。これはDRGとは対照的にtotal L1-CAMの変化と同期している。一次求心性線維終末へのL1-CAMの移行はリン酸化によって調節される可能性もあり得ると考えて、シナプスの形態変化に繋がる項目として次年度に展開している。4. 増加したリン酸化L1-CAMの詳細な局在を検討についてはマーカー蛋白との非共存パターンが確認されるため、現在では一次求心性線維の終末であることのみが明らかになっている。損傷ニューロンのシナプスの構造変化があることが考えられるため、次年度において微細形態におけるリン酸化L1-CAMの局在を確認しリン酸化と形態変化―痛み行動の関連を検討したい。
2: おおむね順調に進展している
唯一計画通りに行かなかった点はリン酸化L1-CAMのキャラクタライズと脊髄における局在の検討であるが、これは予想されたようなマーカー群への局在を示さなかった事が理由であり、一定の定性的なデータは出ている。しかし、当該因子のキャラクタライズは既知の分類から外れる可能性もあるため、目標としているようにL1-CAMのリン酸化を生理的(正常状態)での機能と関連させて推論するという当初の意義を外れる可能性も内在している。
次年度以降はリン酸化L1-CAMの微細形態レベルの可視可、リン酸化阻害と疼痛の関連、既存の治療薬とL1-CAMのリン酸化・局在変化への関与という3つのポイントについて研究を行う予定である。微細形態としてはリン酸化L1-CAMの免疫電子顕微鏡を用いた実験を重点的に行う。リン酸化の阻害としてはcasein kinase IIの阻害が最有力とされているため、この阻害剤をラットに投与して、L1-CAMのリン酸化と疼痛行動との関連を検討する。既存の治療薬としてはGabapentin をはじめとした薬剤を投与してL1-CAMのリン酸化への影響を疼痛行動スコアと関連させて検討する。
上記予定のため、消耗品・試薬・動物の購入をする。これに1,000,000円を使用する予定である。消耗品としては免疫組織科学関連のものが約400,000円、薬剤投与実験の浸透圧ポンプや阻害薬剤で300,000円、動物の購入管理に200,000円、一般的な試薬に100,000円の使用を予定している。また成果発表を行うため、国内外の学会でこれを報告する。この旅費・参加に対し200,000円を使用する予定である。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
J Comp Neurol
巻: 519 ページ: 1597-1615
10.1002/cne.22588