研究課題/領域番号 |
23500419
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
清蔭 恵美 川崎医科大学, 医学部, 講師 (30543392)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 嗅覚神経回路 / 糸球体 / THニューロン / シナプス |
研究概要 |
本研究の目的は、嗅覚の一次中枢嗅球において匂い情報処理の機能的単位と考えられている糸球体のシナプス神経回路の構造を明らかにする事である。なかでもドーパミン合成酵素tyrosine hydroxylase (TH)は、糸球体層に限局して発現が見られることから、THニューロンのシナプス結合を解析することでドーパミンが嗅覚機能と関わる機構の解明を目指すものである。 そこで、平成23年度は、THの発現をgreen fluorescent protein(GFP)で置き換えたトランスジェニックマウス(TH-GFPマウス)を用いて、THニューロンの免疫染色後、電子顕微鏡ランダム及び連続切片法によりシナプス結合の定量解析を行なった。ランダム切片法の結果、TH ニューロンへの入力のうち65%がolfactory nerve (ON)からで32%がnonONからの興奮性シナプスであった。次に単一THニューロンが構成するシナプスの空間的な分布を調べるため、連続切片法を用いた電顕三次元再構築を行った。ONからのシナプスの約60%は、THニューロン細胞体から約30μm離れた突起上に見られた。これに対し、少数のnonONからの入力は、細胞体から10μm以内の突起にシナプスしていた。 これまでの結果から、細胞体近傍突起への少数のnonONからの入力は、細胞体から遠位の突起にシナプスする多数のONからの入力よりもさらに効果的にシナプス電位が伝達されることが推測された。現在、解析細胞数を増やすとともに、nonONプロファイルのニューロン同定に向けてSindbis virus in vivo injection法を用いての解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度研究実施計画のうち、TH ニューロンの糸球体におけるシナプス定量については、順調に研究が進んでいる。さらに解析ニューロン数やシナプス定量数を増やすことで、THニューロン突起上に形成されるシナプス分布の傾向や、これまでに報告された電気生理による実験結果との対比からTH ニューロンが構成する神経回路について深く考察することが可能となる。また、Sindbis virus in vivo injection法を用いた投射ニューロンの同定についても、おおむね順調に研究が進展している。感染実験のセットアップも平成23年度内には完了し、現在、投射ニューロンへの感染効率を向上させるための条件検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度も基本的には前年度と変わらず、継続して以下の2項目について研究を行うものとする。1.THニューロンの糸球体内におけるシナプス定量:TH-GFPマウスを灌流固定後、抗GFP抗体を用いたABC法による包埋前免疫染色を行い、電子顕微鏡標本処理後、80 nm厚の連続超薄切片を作製し電顕下でシナプスを定量する。さらにデジタル電子顕微鏡で連続撮影し各モンタージュ切片上のニューロン像とシナプスをNeurolucidaでトレースし、三次元再構築を行いシナプス分布の解析を行う。2.Sindbis virus in vivo injection法を用いた投射ニューロンの同定とシナプス分布の定量解析:細胞膜移行シグナルを連結した蛍光タンパク質をコードする遺伝子を組み込んだSindbis virusベクターをTH-GFPマウスの嗅球mitral cell layerに注入し、単一mitral cellを蛍光標識させ、別の投射ニューロンであるtufted cellと区別することでより詳細な神経回路の解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初平成23年度にウィルス感染実験の際必要な手術用顕微鏡の購入を予定していが、金額的に不足していたので購入を断念し、前年度未使用額(756,838円)が生じた。尚、手術用顕微鏡については、現在代替品が得られたため実験には支障をきたしていない。次年度使用予定額は平成24年度に請求する研究費とあわせ、抗体やトレーサー等の各種消耗品に加え、平成25年度実施研究計画にある糸球体間神経回路検証のために必要な備品整備に使用予定である。具体的には、パッチクランプ用蛍光顕微鏡周辺機器や脳スライスへのトレーサー注入に必要なマイクロマニピュレーター等を計画している。平成24年度に実施する研究を推進させると同時に、最終年度の研究計画がスムーズに実施できるよう実験環境を整えたいと考える。
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