嗅覚の一次中枢である嗅球の表面には糸球体と呼ばれる構造があり、嗅細胞軸索からの情報を受けさらにその入力情報の調節を行う機能的単位と考えられている。糸球体を構成するニューロン群のうち、ドーパミン合成酵素tyrosine hydroxylase (TH)を発現しているニューロンに着目し、THニューロンが構成するシナプスを解析することでドーパミンと嗅覚機能との関わりを解明することが本研究の目的である。過去2年間で得られたシナプス定量解析の結果として、多数を占める嗅細胞軸索からTHニューロンへの興奮性シナプスは細胞体から離れた突起上に見られたのに対し、少数の嗅細胞以外からの興奮性シナプス(おそらく投射ニューロン;僧房細胞または房飾細胞)はTHニューロン細胞体近傍に見られ、嗅細胞よりも高いシナプス効果を示すことが示唆された。そこで、最終年度は嗅細胞以外の興奮性シナプスを形成する細胞として、投射ニューロンとTHニューロンとのシナプス解析を行った。方法は、細胞膜移行シグナルを連結した蛍光タンパク質をコードする遺伝子を組み込んだsindbis virusを、単一の僧房細胞または房飾細胞に感染させて可視化させた。その後、レーザー顕微鏡による3次元解析でコンタクトの部位を確認し、電子顕微鏡連続切片法によるcorrelativeな観察を行った。その結果、ウィルス感染した僧房細胞からTHニューロンへの興奮性シナプスあり、さらにそのTHニューロンから感染していない別の投射ニューロンへの抑制シナプスが連続的に見られた。このことから、THニューロンを介した投射ニューロン間の側方抑制があり、THニューロンは匂いのコントラスト増強に関わることが示唆された。
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