研究課題
本邦唯一の遺伝性脳アミロイド血管症であるトランスサイレチン(TTR)Y114C型遺伝性脳アミロイド血管症について解析を行なった。臨床的解析において、アミロイド眼症により失明状態であるにもかかわらず、鮮明な幻視がみられており、シャルルボネ症候群に近い状態と考えられ、本症における新たな病態が明らかとなった。放射線学的解析では、脳出血の危険因子として知られる微小脳出血が、致死性脳葉性出血以前にみられることを、近年開発されたMRI磁化率強調法により明らかにした。また、ガドリニウム造影後FLAIRによりNeuro-vascular unit障害も明らかとなった。これらの所見は、本症の重症度評価にも有用と考えられた。病理学的検討において、アミロイド血管症の分布を解析したところ、脳幹部におけるアミロイド血管症が著しく、本症の死因となりうる無呼吸に大きく関与していると考えられた。大脳では、後頭葉の血管症の程度が軽く、失明と関連性について検討が必要である。患者2名よりiPS細胞を作成し、同意を得て難病研究資源バンクに登録した。今後肝細胞へ分化誘導し、TTR発現になどに関し解析予定である。肝移植の効果に関して、肝臓由来の異型TTRを除去することにより、致死性脳葉型出血を予防出来ることが示されたが、前述の中枢神経症状の進行や、微小脳出血の出現は阻止出来ないことも明らかとなった。ジフルニサル、タファミディスは、血中のTTRを安定化することによりアミロイドーシスの進行抑制作用が期待されているが、倫理委員会の承認も得られ、薬剤も準備出来、投与体制を整えることが出来た。
2: おおむね順調に進展している
当初、臨床的症候解析、経頭蓋近赤外光脳機能計測装置などによる脳循環自動調節解析、神経細胞障害機構における活性酸素障害、アポトーシス、ミトコンドリア機能異常、小胞体ストレス、オートファジー、Neuro-vascular unit障害の解析、iPS細胞の樹立、脳血管障急性期病院、国内、海外における疫学調査、肝移植や、ウルソデオキシコール酸、ジフルニサル、タファミディスによる治療効果の解析などを予定していたが、1年目ににおいて、一部の解析結果が明らかとなってきており、結果は十分でなくとも解析に着手出来た部分も多いため。
平成24年度は、本症のさらなる病態解明のため、症例、データを追加し、症候学的検討、病理学的検討、生化学的検討を継続することに研究費を使用する。本症は、多くの神経変性疾患と同様に緩徐進行性であり、病態の解明に一時的な断面的解析でなく長期にわたる経過観察、評価が必要である。治療介入の影響についても検討し、治療法選択への応用について検討する。また、経頭蓋近赤外光脳機能計測装置を用いた脳循環自動調節能の評価法の確立も行なっていく。
設備、備品に関しては、当施設に設置されているものを使用する。研究費の多くは試薬等の消耗品購入に使用し、一部研究成果発表のための旅費や、謝金、研究論文発表のための校正費などに使用予定である。
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Neurology
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