研究課題
多くの神経変性疾患における共通した病理所見である神経細胞内のユビキチン化タンパク質の蓄積は、老化によるタンパク質分解の減弱に起因すると考えられている。神経毒性をもつ病因タンパク質は、凝集性をもつためプロテアソームで分解することが困難であることが示されており、凝集タンパク質は選択的オートファジーにより分解されていると考えられている。選択的オートファジーでは、p62タンパク質に代表されるオートファジーアダプタータンパク質が、分解基質のオートファゴソームによるよる取り込みを介助しており、アダプタータンパク質は分解基質とともにリソソームで分解される。本研究では、p62タンパク質の遺伝子発現を誘導する薬剤のスクリーニング等を行うことにより、p62タンパク質の発現誘導に有用な化合物を同定することを目標とする。p62のプロモーターをクローニングし、p62の遺伝子発現によりGFPタンパク質を発現するレポーターシステムの構築を行った。このレポーター遺伝子をマウスの神経芽細胞に安定的に組み込んだ細胞株を樹立した。この細胞株を用いて、p62遺伝子発現に変化を与える薬剤を10種同定した。p62遺伝子発現を促進する薬剤でハンチントン病モデル細胞を処理し、ハンチンチンタンパク質の凝集を抑制するものと促進するものを見いだした。この研究結果から、p62は酸化ストレス以外にも発現誘導がかかるシステムを持っていることが強く示唆された。しかしながら、ハンチンチンタンパク質の凝集体形成を促進する薬剤においても、選択的オートファジーの促進効果はわずかであった。これは、定常常態におけるp62のリン酸化反応の効率が高くないことに起因していると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
目的である化合物の同定には至ったが、選択的オートファジーを誘導するには至らなかった。そのため、選択的オートファジーを亢進することにより、細胞内の不要タンパク質や凝集タンパク質の分解効率をあげる効果はあまり期待できないとも考えられる。ただし、ハンチンチンタンパク質の凝集を抑制するものと促進するものに関しては、リン酸化型p62は逆に減少しており、p62の絶対量が減っている(発現誘導はかかるが蓄積しない)ことから、何らかの効果がある可能性がまだ期待できる。
p62の発現を促進する化合物に関して、細胞毒性を評価する。p62の発現にはNrf2が関与しているという報告があるので、同定した化合物によるp62発現誘導効果がNrf2依存であるかどうかについて内在性p62の誘導効果をRNAレベルで確認する。
技術補佐員の離職や研究室移転などにより、予定していた実験の停滞が生じてしまったため。実験消耗品の購入
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Genes to Cells
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Nature Communications
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Annual Review 2013 神経, 編集:鈴木則宏、祖父江元、荒木信夫、宇川義一、川原信隆
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