研究課題/領域番号 |
23500435
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
高尾 昌樹 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 専門研究部長 (50245487)
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研究分担者 |
齊藤 祐子 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 臨床検査部, 医長 (60344066)
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キーワード | 脳・神経 / 病理学 / 神経科学 / 長寿命化 / 生体材料 / 認知症 |
研究概要 |
平成24年度は、平成23年度に到達できていなかった過去の症例抽出を継続して施行した。同時に、申請時の研究計画通り、前方視的症例蓄積も継続した。前方視的にみる場合は、ブレインカッティングの際に、通常当ブレインバンクでのルーチン標本に追加し、積極的に大脳白質の標本を追加し検討を行うことは変わらず施行した。 遺伝性脳血管疾患は、現在本邦で多く報告されている、常染色体劣性遺伝性脳血管疾患で白質病変を有するCARASIL 3例の検討がほぼ終了し、現在学会発表、論文発表にむけて準備中である。 過去の症例を検討する中で、認知症をきたす状態においては、脳血管疾患だけではなく、他の神経変性疾患の病態が存在する頻度が、予想以上に高いことが判明した。例えば、アルツハイマー病、レヴィ小体病(LBD)、神経原線維変化優位型疾患、嗜銀顆粒性疾患、海馬硬化症などである。この実態を把握することが研究の主眼からも重要であると考え、特に、認知症が進行してしまった段階よりも、早期の状態あるいは軽度認知機能障害の段階における、病理学的状態が重要で有り検討した。特にCDR 0.5の症例284例に限った場合、脳血管性疾患単独で認知症の原因となったと考えられた頻度が34%、脳血管性疾患に他の神経変性疾患を合併したと考えられた頻度が6%であった。両者をあわせると40%になった。さらに高齢になると、脳血管疾患の頻度が低下することも明らかになった。すなわち、認知症の基礎疾患としての、脳血管疾患の重要性だけではなく、同時に合併している神経変性疾患の重要性が明らかになった。 上記の結果を、第53回日本神経学会総会の教育講演や第3回日本血管性認知障害研究会で発表した。 以上、24年度は全体としてはほぼ予定通りであるが、新たに判明してきた脳血管性認知症と神経変性疾患に関連する病理所見を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時における、平成24年度研究計画の中で、前方視的研究に関しては、24年度の剖検症例に関して、病理学的検討を施行中であり、剖検数も目標数に達している。 大脳白質の血管サイズに関する検討に関しては、組織自体は準備できており、検討を開始できる状況であるが、研究実績の概要および本稿最後と関連するところとして、脳血管性認知症と神経変性疾患の位置づけに関して、優先して検討したため、孤発性疾患は25年度に集中して施行することとなった。この点に関しては予定の研究順序と逆になったが、認知症における背景神経病理において、単独の疾患ではない症例が予想以上に多いこと、年齢による違いもあることから、明らかにしておく必要があったためである。 遺伝性脳血管疾患に関しては、常染色体劣性遺伝性脳血管疾患で白質病変を有するCARASIL 3例の検討を継続しており、現在学会発表、論文発表にむけてのデータが準備された。他の遺伝性脳血管性疾患を示唆する、あるいは疑われる症例は現段階では認めていない。 計画書において、その他の病変の検討として予定していた、神経変性型疾患との関連に関しては、認知症早期あるいは軽度認知機能障害の段階における、病理学的状態を検討し、脳血管性疾患単独で認知障害を呈したものの頻度が34%、脳血管性疾患に他の神経変性疾患を合併したと考えられた頻度が6%と、両者をあわせると40%であったこと、加齢とともに脳血管性認疾患に関連する認知症が減少することが明らかになった。同時に合併している神経変性疾患として、アルツハイマー病やレヴィ小体病の初期、神経原線維変化優位型疾患、嗜銀顆粒性疾患、海馬硬化症などの共存と重要性が明らかになった。 以上、一部研究順序や物品購入予定の変更などもあるが、本研究の基盤となる方向性にそって継続できており、上記自己評価が妥当と考慮される。
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今後の研究の推進方策 |
24年度までに到達できていない既存症例分の検討を継続する。同時に、申請時の研究計画通り、前方視的症例蓄積も継続すること、前方視的にみる場合は、ブレインカッティングの際に、通常当ブレインバンクでのルーチン標本に追加し、積極的に大脳白質の標本を追加し検討を行うことは変わらない。 24年度までの検討で、脳血管性疾患単独と、他の神経変性疾患を合併している症例の違いを検討した結果、すでに述べたようにあらたな知見を得た。したがって、それぞれの群の、認知症の特徴を臨床的に診療録、診療サマリーなどを元にまとめる予定である。一方、合併する神経変性疾患の状態に関して、病理学的に検討を追加する必要があり、とくに、タウ、アミロイドβ、αシヌクレイン、TDP43などの沈着とその分布、拡がりを既存の基準に従って検討する。可能な範囲で、脳血管性疾患を伴わない、かつ同程度の認知障害を来す疾患との比較検討を行い、神経変性疾患関連蛋白の認知障害への影響も検討しておく。その上で、上記の群別検討をもとに、大脳白質の小血管病理学的検討を、血管サイズによる分類(完成した組織標本から、細動脈(直径100μmまで)、小動脈(直径300μmまでと300~1mmまで)を行い、サイズ別に、血管壁肥厚による分類を検討する(すでに遺伝性疾患CARASILに関して検討を施行しており、血管サイズ別に病変の違いは検討終了した)。 遺伝性脳血管疾患特にCARASILに関しては、学会、論文発表を目標とする。 25年度は24年度までの検討を継続的に行うと同時に、最終年度であり全データ解析のまとめ・論文発表などを目標とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度に引き続き物品費、旅費、その他を予定している。現段階で、500,000円を超える物品費は予定していない。 試薬や染色液、抗体などの費用。特に前年度は購入しなかった血管に関する抗体(抗CD31、CD34抗体、抗α-smooth muscle actin抗体、抗typeI、 III、 IV、VI、VIIIコラーゲン抗体、さらに抗fibronectin抗体、抗VGEF抗体、抗Notch3抗体など)や、神経変性疾患に関連する蛋白に対する抗体購入を予定している。 研究に必要な資料や書籍の購入、学会・研究会および論文で発表を行うための準備費用や印刷代などを要する。旅費として学会発表(海外も予定)を含め予定している。 特に25年度は最終年度であり、総括としての発表、論文などへの費用も予定している。
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