研究課題
脳に強く発現する膜型分子SIRPαが、強制水泳を受けたマウスの脳内で強くリン酸化を受け、またSIRPαとその細胞外リガンドである別の膜タンパク質CD47を欠損した遺伝子改変(KO)マウスでは、強制水泳中の無動時間(=動物のうつ様行動)の増加が見られる。この現象について、前年度までにSIRPαのチロシンリン酸化には強制水泳の際、水に浸ることで起こる低体温が主な原因であることを示し、またSIRPα以外にもカルシウム/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼII(CaMKII)などのシグナル分子が低温に応答して神経内でリン酸化状態を変化させることなどを報告した。本年度は、SIRPα-floxマウスとCreリコンビナーゼのトランスジェニックマウスの交配により、前脳神経細胞特異的なSIRPα コンディショナルKOマウスを作製し、このマウスについて強制水泳中の無動時間の解析を行った。このSIRPαコンディショナルKOマウスは、全身性のKOマウスと異なり、無動時間の増加傾向を示さなかった。このマウスでは前脳領域の興奮性神経細胞で特異的にCreが発現しており、これらの細胞でのみSIRPαが欠損していると予想される。すなわち、前脳興奮性神経細胞以外の細胞、例えば、グリア細胞や抑制性神経細胞、前脳以外の神経系、などに発現するSIRPαが全身性KOマウスの表現型に関連する可能性が考えられた。一方で現在、全身性SIRPαKOマウスの脳内でミクログリアの恒常性異常を示すデータが得られつつある。これらの結果から、SIRPαが脳内ミクログリアの恒常性の制御を介して動物の行動制御に関わるという、新たな可能性について検討が必要であると考えている。
2: おおむね順調に進展している
SIRPαノックアウトマウスの解析を進める中で、非神経細胞に発現するSIRPαの機能が行動制御に重要であるという新たな可能性に着目し、コンディショナルKOマウスを導入した解析に着手できている点は進展として評価できると考える。ミクログリア特異的SIRPαコンディショナルKOマウスについては、当初導入したミクログリア特異的Creマウスは文献で報告されているほどの効果は得られなかったが、速やかに別のミクログリア特異的Creマウスを導入し、新しいコンディショナルKOマウスの作製も進んでいる。以上の様に、計画は必ずしも予定通り進められた訳ではないが、新たな知見も得られ、計画の修正も着実に行われている。また、SIRPαの解析と並行して、SIRPαのリガンドであるCD47の全身性KOマウスについての行動解析のデータを論文としてまとめ、報告することができたことも踏まえ、全体として計画はおおむね順調に進展していると評価した。
今後は、まずミクログリア特異的SIRPαコンディショナルKOマウスを用いて、全身性SIRPαKOマウスでみられた行動異常に対するミクログリアのSIRPαシグナルの関与を明らかにしたい。ミクログリアでCreを発現させることができると報告されていたLysM-Creマウスは、SIRPαについては期待通りのKO効率が得られなかったため別のCreマウスが必要となり、この点が課題であったが、すでにミクログリアで効率的に遺伝子KOできることが報告されている別タイプのCreマウスが準備できており、これを用いることで問題を解決できる予定である。また、低温ストレス応答としてのSIRPαのチロシンリン酸化のメカニズム解析が重要であり、また、SIRPαリン酸化シグナルの機能的意義、特に低温が示す神経保護作用との関連の解析が重要と考えている。
ストレス応答性の行動制御に関連する脳内チロシンリン酸化タンパク質SIRPαについて検討を進めていたが、当初の予測に反して神経細胞以外の細胞に発現するSIRPα、特にミクログリアに発現するSIRPαが行動制御に関与する可能性を新たに見出しつつある。この発見の重要性を考慮し、この内容について研究を発展させる目的で計画を一部変更して基礎検討、および新しいコンディショナルKOマウスの準備を進めたため、未使用額が生じた。上記の発見内容について解析を進めるために、現在、ミクログリアに特異的なコンディショナルKOマウスを新たに生産・準備しており、これらの動物について生化学、組織化学、行動生理学的解析を行うために使用する計画である。
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