研究課題/領域番号 |
23500440
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
堀 修 金沢大学, 医学系, 教授 (60303947)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 脳神経疾患 / 小胞体ストレス / 細胞死 |
研究概要 |
1.PDモデルマウスを用いた検討。 野生型、及びATF6ノックアウトマウスを用いて、(1)MPTP急性投与モデル、(2)MPTP/プロベネシド慢性投与モデル((1)に比べてヒトのPDの病態に近いと考えられるモデル)を作製した。抗TH抗体、及び抗ユビキチン抗体を用いた免疫染色によりドーパミン作動性神経の変性及び凝集体形成について評価した所、いずれのモデルにおいても、野生型マウスに比べてATF6ノックアウトマウスで神経変性が促進し、また、ユビキチン陽性の蛋白質凝集体を認めることが明らかになった。さらに、抗GFAP抗体、抗BDNF抗体、抗HO-1抗体を用いた免疫染色、ウエスタンブロットを行ったところ、野生型マウスに比べてATF6ノックアウトマウスにおいてはアストロサイトの活性化が極めて弱く、抗酸化遺伝子HO-1の発現や神経保護因子BDNFの産生も少なくなっていることが確認された。一方、ミクログリアの活性化については野生型及びATF6ノックアウトマウスの間で有意な差は認められなかった。これらの結果から、ATF6ノックアウトマウスにおいてアストロサイト由来の神経保護機構が機能しなくなり、神経変性が促進する可能性を示唆された。2.UPR活性化物質タンゲレチン(IN19)によるドーパミン作動性神経の救済。 申請者らがUPR経路を活性化する化合物として同定したタンゲレチンをマウスに経口投与すると、黒質-線条体系に存在する神経細胞及びアストロサイトにおけるUPRは活性化し、神経保護因子BDNFの産生量は増加した。PDモデル(上記(1)、(2))において認められる神経変性は軽減した。以上のことから、UPRの活性化は黒質線条体系のドーパミン作動性神経の生存に重要な働きをし、新たな治療標的になる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
以下の2つの点で予想以上に計画が進展したと考える。現在、論文投稿準備中である。1.ATF6ノックアウトマウスの解析が予想以上に進行した。野生型マウスに比べてATF6ノックアウトマウスにおいては、MPTP投与後の神経変性が促進するのみならず、神経傷害時に起こるべきアストロサイトの活性化が非常に弱いことが明らかになった。これまで、神経変性疾患における多くの研究が神経細胞自身のストレス応答を扱ったものであったが、今回の結果は、グリア細胞のひとつアストロサイトにおけるストレス応答、特に小胞体ストレス応答(UPR)の重要性を強調するものである。今後、アストロサイトを標的とした治療薬開発が可能になると考えられる。2.UPR活性化物質タンゲレチン(IN19)がマウスPDD神経モデルにおいて神経保護作用を示した。申請者らがUPR経路を活性化する化合物として同定したタンゲレチンをマウスに経口投与すると、黒質-線条体系に存在する神経細胞及びアストロサイトにおけるUPRは活性化し、神経保護因子BDNFの産生量はPDモデルにおいて認められる神経変性は軽減した。以上のことから、UPRの活性化は黒質線条体系のドーパミン作動性神経の生存に重要な働きをし、新たな治療標的になる可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
特に以下の3点について重点的に研究を推進する。1.ATF6とアストロサイト活性化。 一般的に神経障害に伴い放出された因子(シグナル)がアストロサイトを活性化すると考えられている。今後、培養細胞系を含めたATF6ノックアウトマウスの解析を推進することで、その因子の放出にATF6が重要であるのか、或いは因子がアストロサイトに到達した後のシグナル伝達が重要であるのかを明らかにする。2.MPTP投与モデルとは異なるPDモデルである変異型alpha-synuclein過剰発現マウスとATF6ノックアウトマウスの交配を行い、得られたマウスの表現型(神経変性、凝集体形成、アストロサイト活性化)について解析を行う。既にATF6(-/-) / alpha-synuclein Tg (hemizygote)は作製済みで、今後、ATF6(-/-) / alpha-synuclein Tg (homozygote)を作製する予定である。3.ATF6ノックアウトマウスで認められる蛋白質凝集体の構造解析 平成23年の検討を基に、ATF6ノックアウトマウスにおいて最も高率にUb陽性蛋白質凝集体が認められる条件を明らかにする。そして、該当条件で作製した脳切片、及び蛋白質抽出液(界面活性剤不溶分画)を用いて、小胞体蛋白質(GRP78, PDI, ORP150)、-synuclein、Ub、ビメンチンに対する特異的抗体による免疫染色、及びウエスタンブロットを行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度、研究は予定通りに進行したが、少量の残額が生じた(残額調整を行わず)。平成24年度は上記研究を推進するため以下の研究費を請求する。物品費として抗体、免疫染色用試薬、細胞培養関連器具等。旅費として国内学会参加。人件費として謝金分。
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