研究課題/領域番号 |
23500442
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
中山 耕造 信州大学, 医学部, 講師 (70192680)
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キーワード | アルツハイマー病 / γーセクレターゼ / APP / 細胞内ドメイン / 認知症 / 神経変性疾患 / シグナル伝達 / アポトーシス |
研究概要 |
我々は、神経幹細胞分化におけるNotchやDeltaの解析から、γ―セクレターゼの本来の生理機能はAPPを含む1型膜蛋白質のシグナル伝達の調節にあり、それがアルツハイマー病の発症に関係しているのではないかと考えている。現在までに、我々は神経細胞に分化誘導できるテラトカルチノーマ細胞P19を用いて、APPの細胞内ドメイン(AICD)が核へ移行し、神経細胞選択的にアポトーシスを引き起こす事を示している。 また23年度は、DNAマイクロアレイを用いた解析により、この神経細胞選択的アポトーシスの過程でAICDがダイナミックに遺伝子の発現を変化させる事を明らかにし、APPのシグナル伝達機構がアルツハイマー病の発症機序に関係する可能性を示唆して論文を発表している。 γ―セクレターゼによって細胞膜から切り出されたAICDは、核に移行して転写因子と結合し転写を変化させ、神経細胞死を誘導しているのではないかと考えられるが、24年度はAICDの核移行にAICD自体のリン酸化が関係しているのではないかと考えられる結果を得ている。 このように分子レベルでは、AICDがダイナミックに遺伝子発現を変化させ、神経細胞選択的アポトーシスを誘導する事を明らかにしている。この細胞死がアルツハイマー病の発症を反映していないのかを調べるために、共同研究先の新潟大学脳研究所で、AICDを発現するトランスジェニックマウス(Tg)の作製を試みているが、おそらくはAICDの強い毒性のために胎生致死となり、Tgが得られていない。 今後、このAICDの強い毒性による胎生致死を回避するために、Brainbowベクターを用いて、ほぼ半数の脳神経細胞でAICDを発現するマウスを作製する予定である。AICDを発現するTgが得られ次第、早急に解析をおこなう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は既に、本研究の基礎となる細胞レベルでの解析において、神経細胞に分化誘導できるテラトカルチノーマ細胞P19を用いて、APPの細胞内ドメイン(AICD)は核へ移行し、神経細胞選択的にアポトーシスを引き起こす事を発表している。 23年度は、DNAマイクロアレイを用いた解析により、この神経細胞選択的なアポトーシスの過程でAICDがダイナミックに遺伝子の発現を変化させる事を明らかにし論文化した。 細胞膜から切り出されたAICDは、核に移行して転写因子と結合し転写を変化させていると考えられ、核移行のメカニズムの解明は極めて重要である。本年度の成果として、AICDの核移行にAICD自体のリン酸化が関係しているのではないかと考えられる結果を得ている。これらのことから、研究はおおむね順調に進展していると言う事ができる。 当初の計画では、この神経細胞選択的な細胞死の分子レベルでのメカニズムの解明、及びより生理的な状態でもこの細胞死が起る事を示すために共同研究先の新潟大学脳研究所で、AICDを発現するトランスジェニックマウス(Tg)を作製する予定であった。 24年度は共同研究先の新潟大学脳研究所でAICDを発現するTgの作製を試みたが、生まれてきたTgではタンパク質レベルでのAICDの発現は認めらなかった。おそらく、AICDの強い神経毒性のため、Tgが胎生致死になってると考えられる。従って、このTgの作製に関しては現在のところうまくいっておらず、次年度はこの胎生致死を回避するためにBrainbowベクターを用いて、ほぼ半数の脳神経細胞でAICDを発現するTgを作製する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
我々は、γ―セクレターゼによって細胞膜から切り出されたAICDが、核に移行して特定の転写因子に結合することによりその活性を調節し、遺伝子の発現を制御しており、それがアルツハイマー病の発症に何らかの関与をしているという作業仮説のもと、本研究をおこなっている。 「研究業績の概要」に記述したように、我々はAICDの核移行にAICD自体のリン酸化が関係しているのではないかと考えられる結果を得ている。核移行のメカニズムを解明するために、まずこの反応をおこなう酵素を生化学的に同定する。具体的には、マウスの脳のライセートを作製し、これを定法に従いイオン交換、ゲル濾過、逆相等のクロマトグラフィーをおこない精製する。各分画のリン酸化活性の定量は、既に作製済みの大腸菌で産生したリコンビナントAICDを基質に、[32P]-γ-ATPを用いて32Pの取り込みを測定することによって行う。また、同定したリン酸化酵素を用いてAICDを32Pでラベルしたものを基質とし、各分画の脱リン酸化活性を測定する。最終的には、精製した蛋白質をマススペクトルによって同定する。 「研究業績の概要」に記述したように、、予定では24年度に脳内でAICDを発現するTgを得ているはずであったが、タンパク質レベルでのAICDの発現を確認できるTgは得られなかった。おそらく、AICDの強い神経毒性のため、Tgが胎生致死になってるのだと考えられる。従って、このTgの作製に関しては現在のところうまくいっていない。次年度は、このAICDによる胎生致死を忌避するためにlox-Pとその変異体の両方を持つBrainbowベクターを用いて、ほぼ半数の脳神経細胞でのみAICDを発現するTgを作製する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は、当初の計画で見込んだよりも安価に研究が完了したために、310,279円の次年度使用額が生じた。また、本年度の研究計画の変更により、抗体、酵素及び細胞培養用の試薬等の消耗品の購入が予定より多くなると考えられる。従って、この310,279円は全て物品費として使用し、これらの消耗品を購入したい。 その他の経費として、論文の投稿代や英文の校正等の経費として200,000円使用したい。 更に、旅費として300,000万円を国内外での情報収集のために使用したい。
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