我々は、NotchやDeltaの解析を基に、γ―セクレターゼの本来の生理機能はAPP等の1型膜蛋白質のシグナル伝達の調節にあり、それがアルツハイマー病の発症に関係しているのではないかと考えている。現在までに、我々は培養細胞を用いて、APPの細胞内ドメイン(AICD)が核へ移行し、神経細胞選択的にアポトーシスを引き起こす事を示している。 また、DNAマイクロアレイを用いた解析により、この神経細胞選択的アポトーシスの過程でAICDがダイナミックに遺伝子の発現を変化させる事を明らかにし、APPのシグナル伝達機構がアルツハイマー病の発症機序に関係する可能性を示唆している。 γ―セクレターゼによって細胞膜から切り出されたAICDは、核に移行して遺伝子発現を変化させ、神経細胞死を誘導していると考えられるが、昨年度までに、このAICDの核移行にAICD自体のリン酸化―脱リン酸化が関係しているのではないかと考えられる結果を得ていた。今年度は、このAICDのリン酸化及び脱リン酸化に関係する酵素の精製を行なっており、現在、最終段階に入っている。今後、精製した蛋白質をマススペクトルによって同定する予定である。 このように培養細胞レベルでは、AICDがダイナミックに遺伝子発現を変化させ、神経細胞選択的アポトーシスを誘導する事を明らかにしている。この培養細胞で観察される細胞死がアルツハイマー病の発症を反映している事を示すため、共同研究先の新潟大学脳研究所で、AICDを発現するトランスジェニックマウス(Tg)の作製を試みているが、おそらくはAICDの強い毒性のために胎生致死となり、Tgが得られていない。今後、このAICDの強い毒性による胎生致死を回避するために、Brainbowベクターを用いて、ほぼ半数の脳神経細胞でAICDを発現するマウスを作製する予定であり、現在ベクターの作製等、準備中である。
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