研究課題
本研究では筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因遺伝子の変異型を発現するヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞)を作製し、運動神経細胞へ分化させたALSモデル細胞を解析することによってALS発症機序の解明を目的としている。 今年度はALS原因遺伝子を発現するヒトES細胞株の作製を行った。これらの細胞株を作製する際には、我々が開発したヒトES細胞のゲノム特定部位(ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ1遺伝子座)に遺伝子を導入できる方法を用いた。ALS原因遺伝子であるスーパーオキシドディスムターゼ1(SOD1)とTAR DNA binding protein-43(TDP43)の発現ベクターを構築した。発現ベクターのプロモーターとして、常に導入遺伝子が発現するタイプのプロモーターを用いた。構築した発現ベクターをヒトES細胞へ導入したところ、変異型SOD1の過剰発現はヒトES細胞の増殖、生死には影響が見受けられなかった。発現ベクター由来のSOD1の発現はRT-PCR法によってその発現を確認した。また、TDP43の過剰発現では、野生型遺伝子を発現しているヒトES細胞株のみしか作製できなかった。このことは変異型TDP43の発現が細胞死を引き起こしているのかもしれない。そのため、TDP43に関しては発現を制御できる発現ベクターを導入したヒトES細胞を作製し、薬剤によってTDP43の発現が誘導されることを確かめた。SOD1発現ヒトES細胞では未分化マーカーの発現を確認し、核型解析によって、得られたSOD1発現ヒトES細胞の核型が正常であることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
ゲノムの特定部位にALS原因遺伝子(野生型と変異型)が導入されたSOD1発現ヒトES細胞株を作製し、その未分化性、正常核型を保持していることを確認した。TDP43遺伝子の場合、その発現を制御できるタイプの発現ベクターを導入したヒトES細胞株を作成し、その発現誘導を確認した。おおむね計画通り順調に進捗している。
得られたALS原因遺伝子を発現しているヒトES細胞を運動神経細胞へ分化誘導させ、ALS原因遺伝子を発現しているヒトES細胞が運動神経細胞への分化能を保持していることを確認する。また、ALS症状進行の原因の一つは、アストロサイトから分泌される因子であると報告されている。得られた細胞株をアストロサイトへ分化誘導し、アストロサイトへの分化能も確認する。また、運動神経細胞への分化誘導後、ALSモデル細胞での運動神経細胞特異的な細胞死を検出する。それぞれのALSモデル細胞間で、細胞死率に差があるのかどうかを調べる。
本年度は順調に研究が進展し、予算も予定通り消費したが、消耗品の一部が予定より安価に購入できたため、次年度に使用する研究費が生じた。その繰り越した研究費は、次年度の研究費と合わせて、ヒトES細胞の培養維持や神経細胞への分化誘導に必要な培地、増殖因子、培養器材、コーティング試薬や免疫染色法や遺伝子解析のための試薬などを購入する。また、成果発表と情報収集するための学会参加への旅費として使用する予定である。
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Molecular Therapy
巻: 20 ページ: 424-431
10.1038/mt.2011.266
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日本臨牀 幹細胞治療―基礎研究の進歩と臨床応用―
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