研究課題/領域番号 |
23500448
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
稲垣 忍 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90151571)
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研究分担者 |
松山 知弘 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (10219529)
古山 逹雄 香川県立保健医療大学, 教養部, 教授 (20238702)
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キーワード | オリゴデンドロサイト / 脳の発達 / 髄鞘形成 / 細胞死 / 脳虚血 / 脳の修復 / 大脳皮質 / セマフォリン |
研究概要 |
成体における脳機能の修復再生には神経細胞と共にグリア細胞の働きが重要である。これまでに私達はSema4Dが髄鞘形成制御に関与することを強く示唆してきた。本研究では発達期と脳傷害モデル動物を用いてSema4D欠失やSema4D添加が髄鞘形成制御に及ぼす影響を検討した。平成23年度は、Sema4D欠失(KO)が大脳皮質の髄鞘形成期の髄鞘形成細胞であるオリゴデンドロサイト(OL)の分化成熟や細胞死に及ぼす影響を調べた。OL前駆細胞(OPC)数は差がないがOL数が増加していたことから、KOではOLの分化が進んでいると考えられた。さらにKOではOLの細胞死が低下していたことから、Sema4Dが髄鞘形成期のOLの分化成熟と細胞死に関与することが示唆された。平成24年度は、1)電顕による髄鞘形成の形態解析、2) Sema4D作用の受容体の解析、3) 脳梗塞傷害後の組織修復におけるSema4D作用の解析をKOマウスを用いて遂行した。以下にその実績概要を示す。1)KO脳梁では生後4週齢で軸索径が小さい傾向が見られ、8週齢では有髄神経数の増加がみられた。一方、KO視神経では8週齢で髄鞘の過形成の傾向がみられた。以上の結果から、Sema4D欠失は脳梁では軸索依存的な髄鞘化の開始を早め、視神経では髄鞘化を亢進すると示唆された。2)Sema4DのOL細胞死制御作用の受容体がPlexinB1であるかを検討した。KO大脳皮質ではOLの細胞死が減少していたことからSema4DのOL細胞死作用はPlexinB1を介することが示唆された。3)中大脳動脈閉塞によるSema4D KO脳梗塞モデル動物では発達期と同様にOLの細胞死が低下し、OLの回復がより早く観察された。以上の結果からSema4Dが発達期並びに脳傷害時における髄鞘形成能制御への関与が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電顕による髄鞘形成の解析が予定通り進み、Sema4D 欠失が髄鞘形成に関与する結果を得た。 Sema4Dの受容体のうちPlexinB1欠失マウスを入手したので、その髄鞘形成生制御作用への関与をin vitroならびにin vivoオリゴデンドロサイト(OL)培養系を用いて検討したが、結論するにはさらに実験を重ねる必要がある。 Sema4D欠失マウスを用いて脳虚血傷害後の脳修復期におけるSema4D欠失の影響を調べた。Sema4Dは脳虚血傷害後の脳修復機構への関与もみられた。発達期におけるOL細胞死制御作用が脳虚血後の大脳皮質でも観察された。さらに発達期には観察されなかったOLなどの神経系細胞の細胞増殖制御作用が脳虚血傷害後には観察された。しかしこれらの結果を明瞭にするためには、さらに実験を重ねる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画に大きな変更は無く当初の予定通り計画を進めていく。 Sema4Dならびにその受容体と考えられるPlexinB1の髄鞘形成関与について、実験を重ねて今後の研究をさらに発展させる。平成24年度までの研究実績のうち、Sema4DがOL細胞死の制御と髄鞘形成制御に係ることを示し、その受容体の一部はPlexinB1であることを示唆する結果を得た。しかしながら、平成24年度も動物飼育室の汚染の問題等で動物繁殖や使用の制限があり、動物数が充分入手できなかったため、明瞭な結論をだすにはさらにin vivoおよびin vitro OL培養系の実験を重ねる必要がある。 脳傷害後の修復・再生機構を調べるためには、短期モデルに加え、人の脳虚血疾患の治療で求められる慢性期モデルにおける組織修復への関与について研究を継続発展させる。 さらに、中和抗体の投与による組織修復への効果について検討することにより治療法の少ない脳虚血疾患の新たな治療法開発の一助としたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究を進めて行く上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額が異なったが、おおむね研究計画に変更は無い。動物飼育室の汚染などで繁殖などが制限されたため飼育数が当初予定より少なかったことなどで、平成24年度の研究費に未使用額が生じたが、前年度の研究費も含め、当初予定通りの研究を進めていく。
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