ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)や牛の海綿状脳症(BSE)は、致死性の中枢神経系の疾患であり、現在、効果的な治療薬・治療法は無い。本研究は、この疾患を克服するため感染に必須な因子を精製・同定し、プリオン病原体の感染メカニズムを解明する事で治療薬の開発、治療法の確立に寄与する事を目的とする。本研究では感染因子の同定を行うために培養細胞系から、感染性因子を精製する事にした。プリオン感染マウス神経細胞の上清、又は細胞抽出液を用いて、分子密度の違いにより分画(密度勾配遠心法)した。分画した溶液中の感染価を測定した結果、分子密度に応じて感染価が異なっていた。さらに最も感染価の高い分画を二次元電気泳動法による差異解析を行い、感染細胞でのみ発現するタンパク質を174スポット検出した。感染細胞でのみ発現するタンパク質スポットをゲルより切り出し、トリプシン消化後、LC/MS解析によってタンパク質を同定した。その結果、91個のタンパク質をデータベースより同定する事に成功した。さらに感染値の高い分画はショットガン解析を行い存在するすべてのタンパク質について網羅的に解析し、感染性分画にのみ存在するタンパク質群の同定に成功した。この中には、先に報告されたExsosome関連タンパク質の他に、今までプリオンとの関連性が知られていないNCAM1やCD47などの膜タンパク質(他3種)、HSP70やHSP83などのシャペロン関連群(他多数)、Rasなどのシグナル伝達関連(他多数)、その他には酵素や他の微生物由来のタンパク質も見出されている。これらのタンパク質群の中には、いままでプリオン病において報告の無いタンパク質も多く含まれており、感染に関与する新たな候補タンパク質が同定できた。
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