研究課題
1)遺伝子欠損マウスの作製:lotus遺伝子欠損マウス(LOTUS-KOマウス)とngr1遺伝子欠損マウス(NgR1-KOマウス)の交配によってLOTUS-NgR1-ダブルKOマウスを作製した。2)LOTの形成における表現型解析:胎生18日目のマウス胎仔の嗅球に蛍光色素DiIを注入し、LOTを可視化して軸索走行を解析したところ、LOTUS-KOマウスではLOTの脱束化が認められたが、その表現型はダブル-KOマウスでレスキューされ、LOTUSのNogo受容体に対する拮抗作用によってLOT神経束が形成されることが判明し、論文公表した(Sato et al., Science, 333: 769-773, 2011)。一方、神経束形成の後に起こる軸索側枝形成において解析を進めたところ、LOTUS-KOマウスでは軸索側枝が有意に増加したのに対し、NgR1-KOマウスでは逆に有意に減少した。これはLOTUSのNgR1に対する拮抗作用がなくなることで軸索側枝が増加したことから、NgR1の作用によって軸索側枝が形成促進されると考えられた。それを更に検証するため、ダブルーKOマウスで解析した結果、軸索側枝はNgR1-KOマウスのレベルまで減少することが示され、仮説を支持した。現在、培養細胞を用いてNgR1を活性化したりLOTUSを不活性化したりして軸索枝形成の人為的誘導を細胞レベルで試みて仮説検証を進めている。3)海馬と大脳皮質における解析:嗅内野にDiIを微量注入して解析する方法を試行している。4)LOTUSの神経突起伸長機構:培養網膜神経節細胞において、抗PirB抗体によって機能阻害した時の神経突起伸長について精査したところ、申請当初予想した結果とは異なり、PirBの機能阻害によって突起伸長が有意に阻害されることはななく、PirB以外のLOTUS相互作用分子が存在すると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記述した内容の内、平成23年度に計画した内容の約80%は達成した。それに加え、申請書に記述していない内容のテーマが別途に進展した。平成24年度の研究計画に記述した「LOTUSとPirBの結合に関する研究」の一部が既に完了し、予想外の実験結果を得た。PirBとLOTUSの結合によって網膜神経節細胞の軸索伸長が促進されると予想したが、LOTUSとPirBの結合はPirBが受容体として受容する神経突起伸長阻害因子との相互作用に対して拮抗作用を示すことが判明した。その検証研究を当該年度中に進め、予想以上の成果を得た。当初の計画達成度80%とこれらの予定外の研究進展を合わせて、おおむね順調に進展していると判断した。
1)LOTUS-KOマウスを用い、海馬や大脳皮質の神経回路形成における異同を解析する。海馬歯状回錐体細胞の層構築に異常が見られるので、この表現型が生じる経緯などを詳しく解析する。2)網膜神経節細胞の神経突起伸長に関与するLOTUS相互作用分子を同定する。そのために、網膜神経節細胞のcDNA発現ライブラリを作製し、LOTUSと結合する分子を探索する。一方、SBP融合LOTUSを作製し、ストレプ トアビジン複合体を高感度で検出するアビジンアフィニティーカラムによって精製された結合タンパクを同定する方法も試みる。3)LOTUS-KOマウスにおいて脊髄損傷モデルを作製し、損傷後の運動回復過程を野性型と比較検討する。4)LOTUS過剰発現マウス(LOTUS-TGマウス)を作製する。
1)LOTUS-KOマウスの維持、それを用いた組織学的研究および行動学的研究に係る動物維持費や、組織化学用の試薬費などの消耗品費に充てる。2)網膜神経節細胞のcDNA発現ライブラリの作製とLOTUS相互作用分子の探索に係る細胞培養費、ライブラリ作製費、分子生物学用試薬費などに充てる。3)日本神経科学会(名古屋)および日本神経化学会(神戸)での参加発表のための旅費に充てる。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (15件)
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 418 ページ: 390-395
実験医学
巻: 30巻3号 ページ: 479-482
Science
巻: 333 ページ: 769-773
10.1126/science.1204144
ライフサイエンス新着論文レビュー(オンライン:http://first.lifessciencedb.jp/archives/3457)
巻: なし