研究課題/領域番号 |
23500455
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
田中 惠子 金沢医科大学, 医学部, 教授 (30217020)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | グルタミン酸受容体 / NMDA受容体 / 辺縁系脳炎 / long term potentiation / 海馬細胞 / 記銘力障害 |
研究概要 |
イオンチャネル型グルタミン酸受容体 (GluR)は記憶・学習のメカニズムに深く関わる。最近GluR (NMDAおよびAMPA受容体) に対する自己抗体を有する急性脳炎の存在が明らかにされた。NMDAR脳炎では記銘力障害が主要症候の一つであることより、本研究では、これらの自己抗体の脳炎症状への関与を明らかし、その発症機序を解明することを目的とした。最初に、抗NMDAR抗体を検出するため、NMDARを細胞表面に発現させて抗体を検出する、cell-based assay法を確立した。これにより、抗体陽性と判断された例の髄液を用いて、マウスの海馬スライス標本に作用させ、海馬CA1領域にてlong term potentiation (LTP) 誘導に及ぼす影響を検討した。その結果、抗NMDAR抗体陽性検体のみで特異的にLTPの誘導が抑制された。同一症例の髄液を、NMDAR発現細胞と混合して抗NMDAR抗体を吸収することでLTP誘導抑制は解除された。これらの結果から、本抗体が患者神経組織内でGluRの機能を抑制し、本症の記銘力障害などに関与する可能性が考えられた。 さらに本抗体が海馬細胞の形態に及ぼす影響を検討した。培養ラット海馬細胞に抗NMDAR抗体陽性検体を反応させると、それまで細胞膜表面や樹状突起に発現していたNMDARは細胞内に内在化して、受容体としての機能を消失すること、さらに時間経過とともに、新たに細胞表面にNMDARが発現してくることが確認された。これらは、抗体陰性検体では生じないこと、また4℃の環境下ではこの現象は見られないことから、抗原に結合した抗NMDAR抗体が能動的に受容体の内在化に関わることが考えられた。 以上の結果より、抗NMDAR抗体を有する脳炎では、中枢神経内に侵入した抗体がNMDA受容体に直接作用して神経障害を生じることを証明できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度の目標とした、微少電極を用いての、脳炎患者由来の髄液中抗NMDAR抗体が、ニューロンの基本的シナプス伝達およびシナプス可塑性に及ぼす影響を調べるとした目的は達成し、抗体がNMDA容体機能を直接的に傷害することを検証できた。さらに、その機能傷害は、抗体が海馬細胞のNMDA受容体に結合して受容体の内在化を生じることにより生じることが確認できた。続いての目標であった、マウス脳内へ抗体を投与することによるvivoでの疾患モデル作成については、解析に必要な機器の調達が遅れたことより、達成には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に解明できた海馬スライス、培養海馬細胞に対する抗NMDAR抗体の作用については、さらにマウス個体を用いたvivoの系での脳炎モデル作成を行う。これにより、抗体の作用をより生理的な条件下であきらかにすることが可能であり、抗NMDAR抗体陽性脳炎患者での本抗体の作用を明らかにし、抗体産生機序についての解析も加えることで、本症の病態機序を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額に計上した研究費は、今年度、vivoでの発症モデル作成に使用予定であった動物の購入、脳内注入システムに関わる物品の購入に使用予定である。
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