研究課題/領域番号 |
23500469
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
松田 恵子 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (40383765)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 神経細胞 / シナプス / 海馬 / 可塑性 |
研究概要 |
小脳平行線維シナプスにおいて、分泌型シナプス形成因子であるCbln1は、neurexin受容体、およびGluD2受容体と3者複合体を形成し、シナプス前部後部に両方向にシナプス分化を引き起こす。申請者は、GluD2に最も類縁するGluD1受容体、およびCblnファミリー分子が、海馬神経細胞において区画化された樹状突起上の一種類のシナプスに限局することを見出した。このことはneurexin-Cbln-GluDタンパク質複合体が、小脳以外で、シナプス形成および回路構築に機能することを強く示唆する。本研究の目的は、neurexin-Cbln-GluDタンパク質複合体が、両方向性に機能的なシナプスを作り上げる分子基盤が、小脳のみならずグローバルに機能しうることを明らかにすることにある。我々は特異的抗体を用い、GluD1タンパク質が海馬神経細胞、とくにCA1神経細胞のtemporoammonic(TA)シナプスが接続する部位に局在していることを見出した。CA1シナプスの投射元となる嗅内皮質神経細胞にはCbln1mRNAが発現しており、このシナプスにおいてGluD1、Cbln1が共局在し、タンパク質複合体が局在することを明らかにした。また、シナプス前部に輸送されたCbln1と、その類縁ファミリー分子であるCbln4は、投射先であるCA1神経細胞樹状突起上において、シナプス後部側の受容体であるGluD1のTAシナプス領域への局在化を担うことを、強制発現実験、あるいはCbln1、Cbln4両欠損マウスを用いた実験から明らかにした。このようにCbln-GluD複合体は、個々のシナプスレベルのみならず、樹状突起上のシナプス特異性を区画化し、どの神経細胞が次の神経細胞の樹状突起のどこにどのようなシナプスで接続するかいう神経回路構築をも規定するシステムであることが明らかとされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Cbln GluD1の局在化、投射様式については、特異的抗体が得られたため、予想より早く局在化様式の関与について実験が進んだ。また、各Cbln欠損マウス、両遺伝子欠損マウス、GluD1欠損マウスが得られたため、電気生理学的手法を用い、このタンパク質複合体がシナプス伝達調節に関与するか、解析を始めることができた。また、新たにファミリー分子であるCbln4結合タンパク質による特異的なシナプス形成過程についても新たな知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
私は小脳平行線維シナプスにおいて、GluD2受容体がCbln1と共にシナプスを構造的に形成することを明らかとしてきた。Cbln1は強制発現系においてはシナプス後部受容体のGluD1局在化のみならず、GluD1と複合体を形成してシナプス前部の分化を促進することが明らかとなった。しかしGluD1欠損マウスにおいては、海馬CA1シナプス前部の分化について、光学顕微鏡レベルの観察では差が見出せず、さらに解析するために電子顕微鏡観察を実施する予定である。また、新たに、ファミリー分子であるCbln4結合タンパク質による特異的なシナプス形成過程についても新たな知見を得ることができた。この受容体の阻害抗体、阻害ペプチドによるシナプス形成過程への関与を明らかにしてゆく。
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次年度の研究費の使用計画 |
免疫電子顕微鏡観察用の抗体作製、抗体購入、動物の管理、その他細胞培養用消耗品を購入予定である。また、国内学会参加のための旅費を計上した。実験動物管理の補助のための人件費も計上した。また、平成23年度購入予定だった遺伝子導入装置については、大学設置済みのものを使用させていただくことができ、購入を見送った。導入装置付属品などの購入を平成24年度に予定している。
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