記憶は睡眠中に固定されるが、その詳しい中枢神経機構はわかっていない。記憶の2段階仮説を前提として、Non-REM睡眠とREM睡眠が記憶固定において異なる役割を持つという仮説が提唱されている。その仮説によると、Non-REM睡眠中には記憶情報が脳の異なるシステムに転送されて統合され、REM睡眠中にはその情報がシナプスに固定される。また、シータ周波数帯の神経活動とガンマ周波数帯の神経活動の周波数間結合が脳の広範囲に分散する情報の結合に役立っている可能性が指摘されている。これらのことから、REM睡眠とNon-REM睡眠の異なる働きは、神経活動の周波数間結合の性質の違いに反映している可能性がある。このことを検証する目的で、ニホンザルの大脳皮質と海馬に合計約100本の電極を設置し、テレメータを用いて飼育ケージ内での自然睡眠中の脳活動の記録を行った。その結果、Non-REM睡眠中と比較してREM睡眠中に、海馬脳波におけるガンマ波の振幅が上昇することと、シータ波の振幅が低下することが明らかになった。また、シータ波の位相とガンマ波の振幅の間に有意な周波数間結合が認められること、さらにその結合の強度がREM睡眠よりもNon-REM睡眠において有意に高いことが明らかになった。このNon-REM睡眠におけるシータ波とガンマ波の強い結合は、脳の広域に分散している記憶情報の結合に役立っている可能性がある。また、REM睡眠における強いガンマ波活動はシナプスにおける情報の固定に役立っている可能性がある。この結果は、REM睡眠とNon-REM睡眠に関する上記の仮説と一致し、霊長類の脳内においてシータ波が記憶情報処理に役立っている可能性を示唆する。
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