研究概要 |
脳損傷後の認知行動障害を「意識、睡眠、認知」の3つの側面からとらえ、臨床評価尺度、非侵襲的脳機能イメージングを用いてそれぞれの神経基盤と回復を多面的に検討した。脳波・脳磁場同時記録を用い、睡眠紡錘波の大脳皮質内活動を周波数・振幅・左右中心溝前後の4領域の活動源の大きさとして定量化する方法から、脳外傷・脳血管障害などの脳損傷後の紡錘波の特徴を明らかにした。脳外傷後の睡眠紡錘波の周波数・振幅・活動源の大きさは、急性期から慢性期にかけての睡眠効率や睡眠―覚醒リズム、認知機能の改善とともに増加した。また慢性期のび漫性軸索損傷者においてα活動の周波数は、脳波異常の有無、急性期の意識障害の時間と有意に関連した。睡眠紡錘波は脳の可塑性を、慢性期のα活動は急性期の脳損傷の重症度を反映する可能性がある。 平成24~25年度は脳波を用いて「音楽聴取時の脳活動」を定量化することにより、「意識、認知」の神経基盤の一部を検討した。健常者は音楽聴取時には安静時と比べてγ活動が有意に減少した。γ活動の減少は音楽家では非音楽家と比べて前頭部で有意に大きく、内面にむかう意識と関連し、音楽経験による脳の可塑性を反映する可能性がある。脳外傷者は神経心理学的検査で記憶や注意の障害を認め、音楽聴取時には前頭部γ活動に有意な変化が起こらなかった。これは脳外傷によって変化した記憶・注意により音楽を「意識的」に認識できないことを示すものである。音楽活動は、聴覚的・視覚的認知、意識、注意、記憶、情動など、脳のすべての認知・精神活動が統合されたものであり、前頭部γ活動がその一部を反映することが明らかになった。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果は、研究報告書「Consciousness, Sleep and Cognition-Neural mechanism and rehabilitation」にまとめた。
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