研究概要 |
恐怖・嫌悪体験を記憶することは生物の生存に重要であるが、ある種の精神・神経疾患ではこの記憶の極端な亢進が見られる場合がある。本研究では恐怖・嫌悪体験の記憶(恐怖記憶と略)を調節する神経機構解明を目的としてマウスやマーモセットを用いて研究を行った。 その結果平成25年度には次の2点を明らかにして論文報告した。①恐怖記憶の程度は食餌として摂取する不飽和脂肪酸のバランス(特にオメガ3と6の比)に影響を受ける。これには膜流動性の変化を介したカンナビノイドCB1受容体の活性変化が関与する(Neuropsychopharmacology doi: 10.1038/npp.2014.32)。②新生児期にストレスホルモンに曝露されると、成長してからの扁桃体基底外側核ニューロンの興奮性が異常亢進しており、恐怖記憶の時間経過が変化する(Psychoneuroendocrinology 46 64-77, 2014)。これに呼応して、扁桃体におけるSKチャネルやBKチャネルの発現低下が観察された。 研究期間全体では、①②に加えて、③成獣(マウス)をストレスに曝露すると、恐怖記憶の消去が緩徐化すること、④恐怖記憶に重要な扁桃体基底外側核ニューロンの霊長類(マーモセット)における電気生理学的発達の特徴、を論文報告した。 更に、前部帯状回と扁桃体基底外側核ニューロンのシナプス伝達をオプトジェネティクスにより電気生理学的(脳スライスでのパッチクランプ記録)に単離し、ストレス負荷による影響も調べた(未発表データ)。 これらの研究成果は、恐怖記憶を修飾する神経機構についての情報を提供するものであり、情動記憶の神経機構理解に重要であるばかりでなく、恐怖情動異常亢進の症状を有する精神・神経疾患の病態解明や治療法開発にも有用な基盤情報となることが期待される。
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