研究課題/領域番号 |
23500480
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
田村 了以 富山大学, 大学院医学薬学研究部(医学), 教授 (60227296)
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キーワード | 海馬 / 睡眠 / 霊長類 / サル / 電気生理 / 脳波 / ニューロン活動 / 学習・記憶 |
研究概要 |
霊長類で睡眠の記憶固定促進効果に関わる神経基盤を解明するため,本年度は,サル用のポリソムノグラムシステム(海馬脳波記録を含む)を用いて1頭のサルから夜間の自然睡眠における記録を行った.具体的には夜,サルを電気生理学実験室内に設置した飼育ケージに入れ実験室を消灯した.近赤外光照明つきCCDカメラでサルの状態と行動をモニターし,眼球電図,筋電図,皮質脳波および海馬CA1領域の脳波(CA1領域の層構造に沿う多点脳波)とニューロン活動を同時記録した.眼球電図,筋電図および皮質脳波より睡眠ステージを決定し,CA1領域における脳波の層構造に沿った変化と睡眠ステージとの関連性を検討した.また,海馬ニューロン活動は単一ニューロン活動に分離後,放電頻度と睡眠ステージとの相関を解析した. その結果,昨年度に得られた知見,すなわち,「脳波の低周波数帯成分はノンレム睡眠が深まるにつれて増大するが,レム睡眠時には覚醒時とほぼ同じレベルまで戻り,この睡眠ステージ依存的な変化は周波数が高くなるにしたがって小さくなりガンマ周波数帯では逆転すること」が再確認された.さらに深いノンレム睡眠では,海馬CA1領域の方線層上部で最大となる鋭波が記録され,これに時間的にカップルして錐体細胞層でリップル波(高周波振動)やニューロン活動が増加した. げっ歯類等の下等哺乳類動物では,ノンレム睡眠(記憶固定が促進される)時に本研究と類似した知見が報告されてきており,従って,睡眠時の記憶固定には動物種を越えた普遍的なメカニズムが存在する可能性が示唆された.一方,下等哺乳類動物では,レム睡眠(情報符号化に関わる)時に海馬で明瞭かつ持続的な周期性徐波(シータ波)が出現するが,本研究ではそのような周期性徐波は出現せず,従って,海馬内での情報符号化(記憶形成とその一時的な保持)のメカニズムには,動物種間で差異があると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
サルのヘッドキャップの状態が悪くなり記録電極の再埋め込みなどが必要となって、予定していたセッション数まで、記録実験を実施できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
現在使用しているサルに関しては、ヘッドキャップを一次取り外し、新たなヘッドキャップを取り付ける。また2頭目のサルの準備も開始する。これらの作業にはかなりの時間を必要とすることが予想されるため、作業の効率化を図るとともに、必要に応じて実験実施期間の延長も考慮する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は,サルのヘッドキャップのトラブルに伴い研究達成にやや遅れが生じ,そのため覚醒下の行動実験(直線走路の往復移動)を開始できず,当初予定していた収支状況とはならなかった.この遅れを取り戻すべく,来年度は,今年度までと同様のポリソムノグラム用および海馬CA1領域のニューロン活動記録用の電極を慢性埋め込みしたサルに,実験室内に設置した直線走路(約5 m)の往復移動の訓練を開始する.行動課題中にはディスペンサから交互に報酬が出されるが,片方のディスペンサから出た餌をサルが取るまでは他方から餌は出てこない.この行動課題を遂行中にCA1領域からニューロン活動を記録し,その同じ日の夜間睡眠中にもポリソムノグラムおよび海馬神経活動を記録する.記録ニューロンをクラスター解析により単一ユニットに分離後,行動課題遂行時のデータに関しては直線走路上の位置を長軸方向に沿って50分割し,それぞれの部分での平均放電頻度(総放電数/総滞在時間)を算出して場所応答の有無を検出する.場所応答を示すニューロンについては,さらに,海馬脳波位相に対するスパイクタイミングを解析する.睡眠中のデータはLeeとWilson (2002)の方法により,行動課題遂行中の発火パターンが睡眠中にリプレーされるかどうかを解析する.これは,歩行移動中と睡眠中に記録された同じニューロン群に関し,場所応答しているとき(歩行時)のスパイク発生順序を反映するような発火時系列パターンが睡眠中にも出現するかどうかを評価するものである.
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