前年度までに,サル海馬では,①ノンレム睡眠中には脳波徐波成分が増加し,特にCA1領域では鋭波・リップルの出現とニューロン活動の増加が顕著に生じること,②レム睡眠時には典型的なシータ波は出現しないことなどを明かにした。今年度は,霊長類でも覚醒時の体験が睡眠中に海馬で再生されるかどうかを明かにするために研究を進めた.具体的には,まずサル用の直線走路課題システムをセットアップした.幅0.8m,全長5mの直線走路を作製し,その両端にコンピュータ制御のペレットディスペンサを設置した.走路直上の天井にはサルの位置モニタ用のCCDカメラを取り付けた.次に1頭のサルを用い,この直線走路で往復移動を訓練した.行動課題中にはディスペンサから交互に報酬(餌の小片)が出るが,片方のディスペンサから出た餌をサルが取るまでは他方から餌は出てこない.この課題での行動はサルにとって自然な行為の組合せ(自分の足で歩いていって餌をとって食べることの反復)なので,約1ヶ月の訓練により実験室の環境に慣れコンスタントに往復移動を行なうようになった.訓練終了後,このサルにポリソムノグラム用およびCA1領域のニューロン活動記録用の電極を慢性埋め込みした.この状態でサルが直線走路の往復移動課題を遂行中にCA1ニューロンの活動記録を試みたところ,歩行に伴う頭部の振動等により,記録に大きなノイズが混入することがわかった.このノイズ除去のための記録系の改良には多くの試行錯誤を要したが,最近になってようやくほぼノイズ混入のない記録を得られるようになり,現在もニューロン活動記録セッションを継続している.今後,サル自身の居場所に依存した応答特性を示すニューロン(場所細胞)が同時に複数記録されたら,同日の夜間睡眠中にも同じニューロン集団から活動を記録し,覚醒下で行動課題遂行中の発火パターンが睡眠時にも再生されるかどうかを検討する.
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