研究課題/領域番号 |
23500486
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
村田 哲 近畿大学, 医学部, 准教授 (60246890)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 脳・神経 / 自己 / 他者 / 感覚フィードバック / 身体 |
研究概要 |
運動に伴う感覚フィードバックは、運動を制御するためだけでなく、運動主体感や身体保持感などの自己身体マッピングに必須の役割をしている。本研究では、感覚フィードバックが、運動遂行中にどのように処理され身体意識と関わるのか、明らかにすることを目的とする。これまでの海外の研究では、腹側運動前野のニューロンが、自分からの視線でみた自己の身体の動きに反応するものが見つかっており、本年度は、ミラーニューロンが運動遂行中に、自己の運動の視覚フィードバックとして働いているのではないかと考えて、特にミラーニューロンシステムについて重要視し、ミラーニューロンが自己の身体の動きに反応するかどうかを調べている。2012年度の神経科学会大会においては、ミラーニューロンシステムの今後というシンポジウムにおいて "Mirror neuron and corporeal awareness"というタイトルで、頭頂葉のミラーニューロンが自己の運動中の身体象に反応すると思われるデータを発表した。 また、それ以前から研究の流れを受けて、視覚と体性感覚の多種感覚ニューロンを対象にそれらのニューロンが他者の身体像にいかに反応するかの実験を行った。過去の研究では、頭頂葉のVIP野で自己の身体に反応するニューロンが他者の身体象にも反応することが明らかになっている、今回の実験では腹側運動前野の多種感覚ニューロンが、他者の身体象に反応するかどうかの実験を行った。VIP野と腹側運動前野は解剖学的な結合があり、腹側運動前野のニューロンも他者身体像に反応するかと思われたが、今のところそのような反応は見つかっていない。VIP野での反応は他者の身体知覚において自己の身体の表象を参照する反応と思われたが、腹側運動前野では、そうしたシステムには組み込まれていないのか、何か別の要素が関係しているのかさらに研究を進める必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的は、感覚フィードバックが、運動遂行中にどのように処理され身体意識と関わるのか、また、そして自他の身体の認識とミラーニューロンとの関係を明らかにすることである。 2011年度は、視覚フィードバック処理とサルにモニタースクリーンをみながらターンテーブルに取り付けられた3つの異なる握りを実現する物体をつかむ訓練を行った。サルはモニタースクリーン上に映った自分の手や物体の映像を見ながら物体をつかむ。このとき、映像がリアルタイムで提示される場合と、遅れが生じる場合を設定した。また、モニターには自分の手の運動の動画や他者の手の違った視線からの動画を提示し、サルはそれを注視する課題も設定した。これらの課題の訓練を終わり、サルの頭頂連合野AIP野からニューロン活動を記録するための記録用チャンバーと、頭部固定装置を取り付けた。記録の前に手の運動の解析をするため、高速度カメラ設置、現在運動解析中である。記録に関しては、頭頂間溝周辺の体性感覚野のマッピングを終了している。したがって、まもなく視覚フィードバック処理についてのデータ取得を開始する。 また、他者身体の認識に関する実験では、運動前野にあるF4の多種感覚領域から、記録を行った。サルには、記録用チャンバーを弓状溝後端部に取り付け、まずサルの体に実験者がさわることにより体性感覚刺激を与えて、また身体周辺に視覚刺激を出すことにより、体性感覚と視覚の多種感覚ニューロンを探した。そうして探した多種感覚ニューロンに対して実験者がサルに対面し、そのニューロンの受容野に当たる体部位知覚の身体周辺空間に視覚刺激を提示した。過去の同様の実験において、VIP野では、 一方、体性感覚に関する実験では、サルの身体をサル自身が操作して筆で皮膚刺激する装置を現在開発中で、2012年度前半には完成する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度においては、頭頂連合野の視覚フィードバックに関する実験を行う。現在、頭頂間溝周辺のマッピングが終了、AIP野 PFG野のチャンバー内でのおよその位置は明らかになっており、これらの領域から手指の運動に関するニューロン活動の記録を行う。この実験では特に視覚フィードバックに外乱をかけるために、映像に処理をかけて遅延をかけそのときのニューロン活動の変化、また、ニューロンがミラーニューロンであるかどうかを確認することを目指す。また、サルの運動の解析のための高速度カメラは設置を終わっている。ただし、現在一部装置に不具合があり、修理に時間を要するため、ニューロン活動の記録を先に行う。このデータは、9月にイタリアシシリアで予定されているミラーニューロンのワークショップで、発表の予定であり、海外旅費をそのために計上してある。 また、今年度前期に体性感覚刺激装置が完成予定であるため、今年度は体性感覚フィードバックに関する実験の準備に入る。これは、サル自身がレバーを動かして自己の体を筆で皮膚刺激する装置で、筆の動きがレバーの動きに対して遅延をかけることも可能である。そのためのプログラム作成とサルの訓練を開始する。
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次年度の研究費の使用計画 |
機器備品:本年度、体性感覚刺激装置を購入予定であったが、業者に発注した装置の開発に時間を要しており、次年度前半に納入される予定である。そのため、本年度の購入予定の予算が次年度に使用される。また、運動の解析装置に不具合が発生して本年度に緊急にキャプチャーボードの交換を行った。しかし、本年度末に再び、未だに不具合が発生しており、現在修理中である。したがって、この修理費用が発生する。また、サルの皮膚刺激にあたって、サルの体動が多くなり固定具の強度が問題となる。頭部固定装置を改良する必要があり、次年度新たな固定具を購入する。旅費:次年度には、特にイタリアで開催されるワークショップで発表を行うため海外旅費が必要となる。謝金:次年度はデータ解析が必要であり、そのための人件費が予定している。
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