研究課題/領域番号 |
23500486
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
村田 哲 近畿大学, 医学部, 准教授 (60246890)
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キーワード | 脳・神経 / 自他 / 感覚フィードバック / 身体図式 / 身体イメージ |
研究概要 |
運動に伴う感覚フィードバックは、運動を制御するためだけでなく、自己身体マッピングや運動主体感や身体保持感などの身体意識に重要な役割をしていると考えられる。本研究では、感覚フィードバックが、運動遂行中にどのように処理され身体意識と関わるのか、また、感覚フィードバックとミラーニューロンとの関係を明らかにすることを目的とする。 これまでの海外の研究では、腹側運動前野のニューロンが、自分からの視線でみた自己の身体の動きに反応するものが見つかっており、本年度は、特にミラーニューロンが記録される頭頂連合野を中心にニューロンの記録を行った。ビデオスクリーンにサルの目線で撮影した物体や手の動きのリアルタイムの映像を映して、サルはこれを見ながらいろいろな形の物体をつかむ課題をおこなった。また、サル自身が物体をつかむときの動画をモニター上で見せ、手を動かさずに注視する課題も加えた。そうすると、ミラーニューロンの一部が、物体をつかむときの動画を見ているだけでも反応した。また、物体をつかんでいるときの動画において、物体の映像を消して、手の運動だけ見せても反応が残った。手の運動のキネマティクスをコーディングしている可能性がある。したがって、下頭頂小葉のミラーニューロンは、運動の実行のために、腹側運動前野から送られてくる運動の信号の随伴発射(予測される感覚フィードバック)とそれを実行中の感覚フィードバックを比較する役割があり、このシステムによって進行中の運動をモニターすると考えられる。さらにこのシステムは自己と他者の運動を区別するような運動主体感に関わると考えられる。2013年の7月のICME 2012 や9月にイタリアで行われたMirror neurons New frontiers 20 years after their discovery 2012などで発表し、議論を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的は、感覚フィードバックが、運動遂行中にどのように処理され身体意識と関わるのか、また、そして自他の身体の認識とミラーニューロンとの関係を明らかにすることである。 2012年度は、視覚フィードバック処理とサルにモニタースクリーンをみながらターンテーブルに取り付けられた3つの物体をつかむ課題とモニターに映される手の運動の動画を観察する課題中の下頭頂葉のニューロンの活動を記録し、ほぼ3半球からの記録が終了予定である。記録部位は、ミラーニューロンが報告されているPFGと手操作ニューロンが記録されるAIPである。サルはモニタースクリーン上に映った自分の手や物体の映像を見ながら物体をつかみ、このとき、映像がリアルタイムで提示される場合と、遅れが生じる場合を設定した。また、モニターには自分の手の運動の動画や他者の手の違った視線からの動画を提示し、サルはそれを注視する課題も設定した。これまで、ミラーニューロンが自己の運動遂行中にどのような役割があるのか明かではなかった。これらの課題中にAIPやPFGでは、自己の運動の視覚フィードバックに反応すると共に、ミラーニューロンとしての性質も持っているニューロンが多く見つかった。これらのニューロンの記録部位は、PFGの頭頂間溝に近い領域や頭頂間溝の中で記録されており、明らかになっているミラーニューロンの特徴とは異なる結果が出てきており、現在データの解析に入っている。ミラーニューロンが自己の運動のモニタリングに関わることが明らかになってきている。また、一方で視覚フィードバックに遅延を加える実験は、データ数が少なく、今のところはっきりとした結論が言えないが、一部の運動遂行中には抑制されていたニューロンが、運動観察中に反するものが見つかっており、感覚フィードバックに外乱をかけることで反応が現れる可能性がある。さらなる研究が必要と思われる。
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今後の研究の推進方策 |
ミラーニューロンシステムの機能的役割を明らかにするためには、頭頂葉のミラーニューロンと腹側運動前野のミラーニューロンの性質の違いを調べることが大変重要である。本年度においては、これまで行っていた課題を用い腹側運動前野においての記録を行う予定である。現在の記録用のチャンバーは左頭頂葉に設置されているが、同じ動物で記録を行う場合には、チャンバーそのほかの構造物の干渉の問題から、体側にチャンバーを設置する必要がある。サルは現在、課題で使っている手とは反対側の手での物体の操作課題を習得しており、チャンバー設置と共にニューロン活動に記録にはいることが可能である。また、視覚フィードバックに遅延を加えて、フィードバックに対する随伴発射の影響を調べる実験も更に行いデータを積み重ねる必要がある。また、現在解析中の頭頂葉のニューロンのデータは、次年度中頃までに英文雑誌に投稿する予定である。さらに国際学会での発表も予定する。 また、体性感覚刺激装置が完成し、本年度納入予定である。今年度は体性感覚フィードバックに関する実験の準備し、第一次体性感覚野から運動遂行中の体性感覚ニューロンを記録する予定である。これは、サル自身がレバーを動かして自己の体を筆で皮膚刺激する装置で、筆の動きがレバーの動きに対して遅延をかけることも可能である。
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次年度の研究費の使用計画 |
機器備品 体性感覚刺激装置が完成が遅れていたが、次年度始めに納入される運びである。サーボモーターなどの仕様の変更を行ったため、当初予定よりもやや予算が上乗せになっている。また、サルの皮膚刺激にあたって、サルの体動が多くなり固定具の強度が問題となる。頭部固定装置を改良する必要があり、パーツの作成費用が必要となる。 旅費 次年度には、これまでの研究の成果を発表するための国内旅費、海外旅費を計上する。また、海外雑誌に投稿の予定であり、そのための費用も計画する。 謝金 国内、海外の研究者との知識提供、意見交換のため研究会のための謝金を計画する。
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