哺乳類の雌の発生に必須であることが知られている「X染色体不活性化」は、現在、幹細胞の多能性を評価することができる指標としても注目を集めている。しかし、これまで簡便なモニター法は報告されていない。本基盤研究ではX染色体の不活化状態に注目しそれを可視化することにより、幹細胞の状態を、細胞を生かしたまま評価することができる新しい系の構築を試みた。この系を応用することにより、「リプログラミング」の過程を追跡することが可能となる。研究の成果はヒトなどのES細胞の効率的な作製などにも寄与するものと期待でき、再生医療の発展にも大きな影響を与える可能性 がある。 本研究では、XYおよびXXのES細胞を用いて、標的部位に相同組み換えにより蛍光タンパクを挿入し、不活化状態を検出することを試みた。これまでの成果により、1、2種類の核移行シグナル(NLS)をGFPタンパクに融合させ、その蛍光強度、および細胞内の局在パターンを検討し、最適なNLSを選択した。2、蛍光蛋白をコードする遺伝子を細胞に染色体に挿入する時には、挿入位置や挿入方向が発現に及ぼす影響を及ぼす可能性が考えられる。この点について評価するため、複数のベクターを作製し挿入位置における蛍光タンパクの発現への影響を、顕微鏡観察及びFACSにて検討した。3、得られたES細胞について未分化状態及び、分化誘導をかけた状態での蛍光強度の観察を行い、蛍光強度の変化の有無を調べた。この解析により、蛍光強度変化の少なく安定して蛍光が観察出来る組み替えES細胞を絞り込むことに成功した。調べた範囲では、この系は上手く不活化状態をモニタリングできることが確認できた。これら成果は、X染色体不活化機構の解析などの基礎生物学研究以外に、体細胞の「リプログラミング」の実態の解明などにも役立ち再生医療にも貢献すると考える。
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