本研究の目的は、骨髄環境をヒト化した免疫不全マウス(NOGJ)にヒト多発性骨髄腫細胞を移植して作成したモデルマウスを利用して、新薬開発への礎となる知見を得ることである。 我々が作成したヒト骨髄腫モデルマウス(NOGJ)は、通常の免疫不全マウス(NOG)に比べて、骨髄腫細胞がマウスの骨髄内に顕著に多く存在する。また、興味深いことに、多発性骨髄腫の分子標的薬であるボルテゾミブをマウスに投与すると、NOGモデルではマウスの骨髄内の骨髄腫細胞が薬剤非投与群の10~20分の1以下になるのに対し、NOGJモデルでは、個体差はあるけれども薬剤非投与群の2分の1から5分の1程度にしかならない。つまり、NOGJマウスの骨髄環境は、骨髄腫細胞の生着を促すばかりでなく、薬剤抵抗性をもサポートする。 これらの実験結果を踏まえて、Jagged1依存性のNotchシグナルが、ヒト骨髄腫細胞の生存に直接関与しているか否かを明らかにするために、Jagged1を発現する骨髄ストローマ細胞と通常のストローマ細胞と骨髄腫細胞を共培養してin vitroの薬剤感受性試験を行った。その結果、Jagged1発現ストローマ細胞上で、細胞がより生き残っていることが明らかとなった。さらに、非特異的なストローマ細胞の影響を排除するために、Jagged1ペプチドを固相化したディッシュを用いて同様の実験を行ったところ、ペプチド上でのヒト骨髄腫細胞株の生存が、統計的に有意な差をもって上昇していることが確認された。 これらの結果から、Notchシグナルはヒト骨髄腫細胞の生着促進および薬剤抵抗性に直接的に関与していると考えられる。
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