研究概要 |
本研究では、遺伝子組換えにより作出した糖尿病ブタの表現型を確認すると共に、糖尿病合併症に焦点を合わせて、その誘導方法の決定と病態の解析を行い、糖尿病モデルとしての特徴を明らかにした。本研究では、変異型ヒト肝細胞核因子遺伝子(HNF1αP291fsinsC)を導入したドミナントネガティブ変異体のトランスジェニックブタを研究対象とした。この糖尿病発症ブタは、通常飼育下で糖尿病合併症である腎症病変と網膜症病変を発現する事が確認された。また、皮下毛細血管の血流障害を示唆する予備的知見も得られた。 腎症研究では、血糖値コントロールせずに糖尿病ブタを10か月齢迄育成し、腎病変を解析した。糖尿病性腎症で特徴的な結節性病変は4週齢から確認され、月齢と供に病変数は増加した。この病変は表層皮質部分よりも深層皮質部分に分布していた。免疫染色像の解析の結果、この結節性病変は各種コラーゲン(type I, III, IV, V, VI)、AGEs、CML、TGF-βに対して陽性であった。この結節性病変は傍髄質腎小体で成長する特徴を持ち、その形成には用いたブタに特徴的な持続的高血糖と血行力学的因子が関与していると考えられた。しかし、ヒト糖尿病患者で確認されるメサンギウム融解, 滲出性病変, 尿細管間質病変, 細動脈の硝子様変性症は確認されなかった。 網膜症研究では、2頭の糖尿病ブタの血糖値を約400mg/dlにコントロールしながら1年間飼育し、眼底検査を実施した。2頭供に2ヶ月齢時から糖尿病白内障が確認された。続いて、4ヶ月齢時から眼底網膜において出血と綿花状白斑が確認された。さらに、1頭については硝子体出血が確認された。 この糖尿病発症ブタは、誕生後1年以内に糖尿病性腎症、白内障、糖尿病性網膜症などの糖尿病合併症の病変を現すことが確認された。糖尿病モデル動物として、今後の研究に有用であると考えられる。
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